Ecole de français du Kansai -Traduction, Interprétariat, Guide-
   
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フランス以外のワインの格付け

フランス以外のワインを選ぶときの参考に各国のワインの格付け表示についても少し付け加えておきます。1992年以降はEU加盟国のワインはフランスでいうAOP、IGPと同等の表示になっているはずですが、ワイン産出国ではそれ以前にも独自のワイン法があって厳格な格付けをしていました。現在市場に出ているワインにも表示が踏襲されている例が多いので以下にいくつかの例を挙げておきます。
イタリア:以前からあったワイン法に1963年「原産地呼称」規定が盛り込まれ、現在はつぎのような格付けが行われています。
D.O.C.G.(Denominazione di Origine Controllata e Garantita =デノミナツィオーネ・ディ・オリジネ・コントロッラータ・エ・ガランティータ「統制保証原産地呼称」)。
D.O.C.(Denomtnazione di Origine Controllata デノミナツィオーネ・ディ・オリジネ・コントロッラータ「統制原産地呼称」)。
l.G.T. (Vino da Tavola con lndtcazione Geografica Tipica =ヴィーノ・ダ・タヴォーラ・コン・インディカツィオーネ・ジェオグラフィカ・ティピカ「地酒」)。
Vino da Tavola(ヴィーノ・ダ・タヴォーラ「テーブルワイン」)。

ドイツ:ドイツのワイン法はEU諸国の中でも特に細かく定められています。また、ドイツワインの格付けの特徴として挙げられるのは、基本的にブドウの熟し具合、糖度によるという点です。
Prädikatswein(プレディカーツヴァイン「生産地限定格付け上質ワイン」)。糖度によってトロッケンベーレンアウスレーゼ、アイスヴァイン、ベーレンアウスレーゼ、アウスレーゼ、シュペートレーゼ、カビネットに分類される。
Q.b.A.(Qualitätswein bestimmter Anbaugebiete=クヴァリテーツヴァイン・ベシュティムター・アンバウゲビーテ「生産地限定上質ワイン」)。エチケットにはQualitätsweinと表示される。
Deutscher−Landwein(ドイチャー・ラントヴァイン「地酒」)。
Deutscher-Tafelwein(ドイチャー・ターフェルヴァイン「テーブルワイン」)。

スペイン;1970年に「ブドウ畑、ワイン及びアルコールに関する法令」が施行され、同法に基づいた全国原産地呼称庁(lNDO)が設立されて原産地呼称(Denominación de Origen=D.O.)を名乗るための条件が定められました。EU加盟による改正現行法では以下のようになっています。
D.O.V.P. (Denominación de Origen Vino de Pago デノミナシオン・デ・オリヘン・ビーノ・デ・パゴ「単一ブドウ畑限定高級ワイン」)。
D.O.C. (Denominación de Origen Calificada デノミナシオン・デ・オリヘン・カリフィカーダ「特選原産地呼称ワイン」)。
D.O. (Denominación de Origen デノミナシオン・デ・オリヘン「原産地呼称ワイン」)。
V.C.l.G. (Vino de Calidad con lndicación Geografica ビーノ・デ・カリダ・コン・インディカシオン・ヘオグラフィカ「地域名称つき高級ワイン」)。
Vino de la Tierra(ビーノ・デ・ラ・ティエラ「地酒」)。
Vino de Mesa(ビーノ・デ・メサ「日常用のワイン」)。

チリ:チリワインが国際的に評価を高めてきたことに伴い、ブドウ栽培地域を特定することを目的として1995年に「原産地呼称法」が施行されました。品種や収穫年の表記についても規定があります。
D.O. (Denominación de Origenデノミナシオン・デ・オリヘン「原産地呼称ワイン」)。原産地呼称法に定められたブドウ栽培地域で収穫された同法指定品種から作られるワイン。<表示規定> ① 産地名:定められたブドウ栽培地域内で収穫されたブドウを75%以上使用すれば表記可能。 ② 品種名:75%以上単一品種を使用すれば表記可能。複数の品種を表記する場合は15%以上使用の品種を多い順に3品種まで左から右へ表記。 ③ 収穫年:75%以上同一収穫年度のブドウを使用すれば表記可能。
D.O.表示のないチリワイン=チリ国内で収穫された指定品種でつくられるワイン。

これ以外にも、EU加盟各国ではEU規則に沿った国内法による格付け規定がありますし、国際的に評価が高まってきている合衆国(特にカリフォルニア州)やオーストラリア、南アフリカ、アルゼンチンなどにも同様の法律があります。

日本:さて、わが日本はと言うと、遅ればせながらというかようやくというか、純国産ワインであることのお墨付きとして「日本ワイン」と表示するための決まりごとが定められました。2018年10月から施行された酒税法第86条の6「酒類の表示の基準」に基づく国税庁告示「果実酒等の製法品質表示基準」です。これは日本の一部のワインが国際的な賞を受賞するなど評価が高まってきたことに背中を押されたものです。主務官庁が農水省ではなく、法令でも規則でもないところがミソですが、なにはともあれ「日本ワイン」と表示するためには日本産ブドウを100%使用することが義務付けられたのは一歩前進と言えるでしょう。ただ、糖類やアルコールの添加についての規制はほとんどないといっていい状態です。
また、「日本ワイン」のほかに「国内製造ワイン」というのがあるところがくせ者で、これは日本国内で瓶詰めしていれば100%輸入ワインのブレンドでもいいし、原料に輸入濃縮還元果汁を使ってもいいことになっています。ひどいものになると輸入濃縮還元果汁を水で薄めて酵母と糖類を添加し、でき上がったワインもどきの液体にアルコールや保存料、増粘剤などを添加したものがあり、酒税法上は「果実酒」に含まれますがワインとしてはまがい物です。「日本ワイン」の表示のないものはお勧めできません。
また、フランスのIGPにあたる原産地呼称表示保護に関してはWTO(世界貿易機関)によってワインと蒸留酒の地理的表示保護が加盟国に義務付けられたことから、「酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律」第86条の6第1項の規定に基づく国税庁告示で国内で製造される酒類すべてを対象として「改正 酒類の地理的表示に関する表示基準」が2017年3月に定められました。現在清酒7件(日本全体が対象の「GI日本酒」を含む)、ワイン2件、蒸留酒4件、リキュール1件が指定されていて、ラベルに「地理的表示○○」、「Geographical Indication○○」、「GI○○」のいずれかを表示できるようになりました。
このうちワインは「北海道」と「山梨県」で、「池田町」や「甲州市」ではない道県単位の指定になっているところがこれまたミソです。原料ブドウに道、県産を100%使用することが義務付けられており、「日本ワイン」における原産地表示の条件である日本産100%うち都道府県産85%以上という規定より少し厳しくしてありますが、品種に関しては域内で栽培されているブドウすべてが許可品種になっていて、いわば「何でもあり」状態です。
これをフランスで例えれば使用品種、製法、熟成方法などを細かく規定して集落単位まで細分化されたAOCを持つボルドーワイン全体を「ジロンド県ワイン」と「オート・ガロンヌ県ワイン」の二つにひっくるめるようなものです。AOPやIGPとは比べ物にならない粗雑さで「格付け」と呼べるようなものではありません。
原産地呼称表示については、「日本ワイン」の中にも地域産ブドウ100%をうたってそれなりに頑張っているところもありますし、長野県や山梨県甲州市がなどは独自の「原産地呼称管理制度」や「品種名表示基準」を策定して例えば「地元産甲州種100%の白ワイン」などいいものを世に出そうと努力しています。
すそ野を広くしておくことは一概に悪いとは言えませんが、「細かいことは地方に任せよう」という考え方は国のブランド戦略としてはうまいやり方とは思えません。国際的に通用するブランドを確立するためには法令規則に基づく審査による競争が必要だと思います。法的に品質を保証されたラベルとして「甲州ワイン」や「河内ワイン」と表示できるようにすべきでしょう。
 「GI日本酒」以外の6件の「GI清酒」を見ると、アルコール、糖類の添加を禁止しているもの1件、糖類の添加のみ禁止しているもの5件で、そのうち原料米の品種を指定しているもの1件、原料米の産地をGI域内に限定しているもの2件(うち1件は品種指定と重複)と指定基準に一貫性がありません。
 日本全体を対象とした「GI日本酒」に至っては「国産米を100%使用して国内で製造すること」が義務付けられているだけで、この条件さえ満たせばアルコールや糖類、アミノ酸などを添加した安酒も「GI日本酒」と表示できるわけです。清酒業界の圧力に屈した結果でしょうが、添加物まみれの粗悪な酒まで全部救うためのきわめて乱暴な指定だといえます。一方輸入米を使っても国外で製造しても米と米麴さえ使っていれば酒税法上は「清酒」ですから、どう転んでも業界は安泰というわけです。
2つの告示を見ると日本における酒類の法的位置づけは、消費者保護というより徴税と業界保護に主眼が置かれていることがわかりますね。

次回は格付けにも大きく関係する生産者のことを紹介します。