Ecole de français du Kansai -Traduction, Interprétariat, Guide-
   
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・ワインの生産者

 エチケットには生産者に関する情報も当然書かれています。たぶんいちばん大きく書かれているのはChâteau○○とか Domaine○○という文字でしょう。これが多くは生産者名を示します。ChâteauやDomaineの表示がなく生産者名だけになっていることもあります。
また、どこで瓶詰めしたかということも書かれており、これも生産者に関する重要な情報の一つです。
そんな生産者に関する用語を以下にまとめます。その前に、エチケットには記載されていませんが生産地に関する重要な単語をいくつか覚えておいてください。まずterroir(テロワール)という言葉です。ラテン語のterra=大地が語源で、「ブドウ生産地の総合的な性格」というような意味に使われます。ワインの話では「テロワールの特徴をよく表している。」というふうによく耳にする単語です。どちら向きの斜面か、石灰質土壌か粘土質か、石は多いか少ないか、水はけや日照時間はどうかなど、生産地の立地、地質、気候全てが作られるワインの性格に大きく反映することから、最も重視される言葉の一つでもあります。
このテロワールに関して主にブルゴーニュで使われる用語にClimat(クリマ)とlieux dits(リュー・ディー)があります。climatは「気候・風土」という意味ですが、大文字で始まるClimatはブルゴーニュにおける「明確に限定された土地の区画」のことで、特定の地質、気候、風土がブドウに及ぼす影響を細分するテロワールの定義として使われます。一方リュー・ディーは「決められた土地」という意味で、地形学的な限定とともに、所有者の変遷など歴史的特性を有する土地の小さな区画を指します。日本で言う小字のようなものと思えばいいでしょう。クリマとリュー・ディーの関係はちょっとわかりにくいのですが、ひとつのクリマの中の特別な畑がリュー・ディーである場合と、リュー・ディーの一部が特定のクリマを持つ場合と二つの意味を持ちます。ブルゴーニュのワイン産地格付け地図に見る細分化されたモザイク状の格付けはこれによっています。
つまり、ブルゴーニュではボルドーの5大シャトーのように生産者が格付けされるのではなく畑が格付けされるのです。1本数十万円もするロマネ・コンティは、ドメーヌ・ドゥ・ラ・ロマネ・コンティ社が格付けされているのではなく同社が所有するわずか1.8ヘクタールのロマネ・コンティというブドウ畑のクリマが格付けされているということなのです。
ブルゴーニュのクリマは、数百年変わらないワイン産地の文化的景観であるとともに人間と自然のかかわりによる文明の稀有な証拠であるとして2015年「ブルゴーニュのブドウ畑のクリマLes Climats du vignoble de Bourgogne(レ・クリマ・デュ・ヴィニョーブル・ドゥ・ブルゴーニュ)」という名称で世界文化遺産に登録されました。ブルゴーニュのワインは日本でも愛されていますから覚えておいて損はないでしょう。
 例としてブルゴーニュの産地地図とロマネ・コンティを含むヴォーヌ・ロマネ村のクリマによる格付け地図を掲載します。
ブルゴーニュのAOC産地地図 ヴォーヌ・ロマネ村のクリマ

他の産地でも年間の気温や降水量の推移など生産地全体のテロワールの特徴を評価する場合もありますが、場所によって地質や水はけなどの違いがあり、栽培に向いた品種もその出来具合も差が出ますから、クリマと同じような概念はあります。
下に挙げたような生産者の所有地ごと、あるいは生産者が所有する一部の畑だけを取り上げて評価する場合もあるため、格付けに大きな差が生まれるのです。

生産者
Châteauシャトー:本来の意味は城だが、ブドウの栽培から醸造、瓶詰めまで自社で行う会社のことで、他地域でも使われるが主としてボルドーで使われる用語。ボルドーでは伝統的にDomaineは使わない。
Domaineドメーヌ:本来の意味は領地、所有地だが、ワイン用語では農場といったニュアンスで使われる。シャトーと同様ブドウの栽培から醸造、瓶詰めまで自社で行う会社のことで、主としてブルゴーニュで使われる用語だが他地域でも使われる。ブルゴーニュで社名にChâteauを冠したメーカーもブルゴーニュの公式の生産者分類ではすべてDomaineに含まれる。
Closクロ(囲い地):塀や柵ではっきり区画されたブドウ畑のこと。比較的小規模な生産者が多いが、大規模な生産者が所有する広大な畑の中の特別な一画を指す場合もあり、個性的なワインを生み出している。
Coopérativeコーペラティヴ(協同組合):複数の農家が栽培したブドウでワインを醸造したり、農家が醸造したワインを集めてブレンドしてワインを生産したりする。
Maisonメゾン:多くは小規模農家製のこと。手書きプリントのエチケットなどがあって見た目にも楽しい。生産年による品質のばらつきが多いものの時として素晴らしいワインに出会うこともある。
 シャンパーニュでは大規模な生産者でも伝統的にMaisonを使う。
また、大規模な生産者が自家消費用につくるワインを
vin de maison(うちのワイン)と呼ぶこともある。
Negociantネゴシアン:ワインの卸売・仲介業者のこと。自社のブドウ畑は所有せず、酒造会社を設立して農家から買い入れたブドウや果汁でワインを醸造したり、買い入れた原酒をブレンドしてワインを製造している。もともとワインに関する知識が豊富なことから高品質なAOPワインもたくさん作られる。

 次に瓶詰めに関する生産者情報の表記を以下にまとめます。
mis en bouteille au château(ミザン・ブテイユ・オ・シャトー):シャトー元詰め。ブドウ栽培から瓶詰めまですべての生産過程がシャトーで完結したことを示しており、上質なワインの指標の一つとされる。
mis en bouteille au domaine(ミザン・ブテイユ・オ・ドメーヌ):ドメーヌ元詰め。シャトー元詰めと同様の意味。
mis en bouteille à la propriété(ミザン・ブテイユ・ア・ラ・プロプリエテ):生産者元詰め。DomaineであれClosであれ、ブドウ栽培から瓶詰めまで生産者が一貫して行ったことを示す。これも上質なワインの指標とされる。
mis en bouteille à la coopérative(ミザン・ブテイユ・ア・ラ・コーペラティヴ):協同組合で瓶詰めしたワイン。瓶詰設備を持たない小規模農家のものと、協同組合が農家から買い入れたブドウで作ったワインや、農家から集めた原酒をブレンドして生産したワインの2種類あり、小規模農家のものはエチケットに生産者名が表示される。
mis en bouteille à la maison(ミザン・ブテイユ・ア・ラ・メゾン):生産者の家で瓶詰めしたワイン。
mis en bouteille dans nos cave(ミザン・ブテイユ・ダン・ノ・カーヴ):ネゴシアンが自社の施設で瓶詰めしたワイン。

 次回はワインを楽しむうえで知っておいたほうがいい生産年のお話をします。