Ecole de français du Kansai -Traduction, Interprétariat, Guide-
   
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 ④ワインづくり その2

 ワインづくりに関する用語と意味を紹介していきます。
vinification(ヴィニフィカシオン):醸造。ワインづくりの全工程を包括した言葉。
fermentation(フェルメンタシオン):発酵
cuve(キューヴ):発酵槽、タンク。木製cuve en bois(キューヴ・アン・ボワ)、ステンレス製cuve en acier inoxydable(キューヴ・アン・アシェ・イノクシダブル)、コンクリート製cuve en ciment(キューヴ・アン・シマン)などいろいろ。
紀元前6世紀にはワインづくりが始まっていたというジョージアの伝統的製法では
kvevri(クヴェヴリ)という800リットルも入る素焼きの大甕を地面に埋めて使う。
cuve fermée(キューヴ・フェルメ):密閉タンク。タンクを密閉して発酵させると微発泡ワインになる。
cuve ouverture(キューヴ・ウヴェルチュール):開放タンク
barrique(バーリック):大樽。発酵に使う樽。
égouttage(エグタージュ):ブドウをつぶして自然流下する果汁を分離すること。圧搾しないことで果皮に含まれる色素やタンニンが混ざることなく、すっきりした白ワインができる。
débourbage(デブルバージュ):澱下げ。発酵前の果汁を静置して澱を沈殿させること。
moût de goutte(ムー・ドゥ・グト):エグタージュでとった自然流下果汁。
moût de presse(ムー・ドゥ・プレス):圧搾して搾った果汁。
marc(マール):ブドウの搾りかす。家畜のえさやチーズの熟成などにも使われる。この搾りかすを発酵・蒸留した蒸留酒をeau de vie de marc(オー・ドゥ・ヴィ・ドゥ・マール)または単にmarcという。まさに粕取り焼酎だが思いのほか高級。
levure(レヴュール):酵母
macération(マセラシオン):かもし。果汁と果皮を一緒に発酵槽に漬けこむこと。この段階ですでに1次発酵は始まっている。
macération carbonique(マセラシオン・カルボニク):炭酸ガス浸漬法。密閉した容器に果梗のついた丸のままのブドウを入れて、発酵に伴って発生する炭酸ガスが充満した状態で発酵させる方法。通常のかもしより早く発酵が進むため果皮の色やタンニンの抽出が少なく、色の薄い軽いワインができる。新酒のうちに飲むボージョレ・ヌーヴォーなどによく使われる手法。
fermentation primaire(フェルメンタシオン・プリメール):1次発酵。発酵槽での発酵。酵母が糖をアルコールに変えていく過程で、アルコール発酵fermentation alcoolique(フェルメンタシオン・アルコリク)ともいう。
fermentation secondaire(フェルメンタシオン・スコンデール):2次発酵。ろ過して果皮などを取り除いたあとの赤ワインや液抜き後のロゼワインの発酵。
fermentation malolactique(フェルメンタシオン・マロラクティク):乳酸発酵(マロラティック発酵)。鋭い酸味を持つリンゴ酸malique(マリック)を乳酸菌ferment lactique(フェルマン・ラクティク)の働きで乳酸と炭酸ガスに分離する発酵。乳酸菌がまろやかな味わいを作り出す。赤、白、ロゼともに行うが、フレッシュな酸味を重視するタイプの白ワインでは行わない。アルコール発酵が終わってろ過したワインの発酵槽にスターターとなる乳酸菌を投入して行うが、生産者にとって年ごとのワインの酸度をどの程度に調整するかは味わいの決定に大きく影響するため、使う乳酸菌の種類、量には最大限の気配りが必要とされる。
prise de mousse(プリズ・ドゥ・ムース):「泡を取り込む」の意。シャンパーニュなど発泡性ワインの炭酸ガス濃度を高めるためにする瓶内発酵。
chapeau(シャポー):果帽。赤ワインの発酵中液面に浮いてくる果皮。
pigiage(ピジアージュ):櫂突き。発酵中の赤ワインのタンクを櫂で突いて果帽を混ぜる作業。空気を混ぜて酵母の働きを活発にすることと果皮の色を抽出することが目的。かつて人が桶に入って足でブドウをつぶすことをpiger(ピジェ)と言ったことが語源。
remontage(ルモンタージュ):ワインの循環。発酵中タンク下部のワインをポンプで汲み上げ、上から振りかけること。ピアージュの作業を機械化したものと思えばよい。白ワインでも行われる。
saignée(セニエ):液抜き(もとは血抜きの意)。南仏のロゼの製法。赤ワインと同様に仕込んだワインの1次発酵途中で果皮の色素が十分抽出されないうちにワインを分離すること。décuvaison(デキュヴェゾン)ともいう。同じ黒ブドウ品種でも液抜きのタイミングでロゼの色が決定される。
assemblage(アッサンブラージュ):ブレンド。複数の品種で醸造したワインを混ぜること。使用できる品種や比率はAOCの規定で細かく定められている。複数の原料ブドウを混ぜて一緒に発酵させることはほとんど認められていない。
additif(アディティフ):添加物。IGPワインの中には、酸度を調整するために酒石酸など添加物の使用が認められている場合があるが、産地、品種に対しては厳しい規制があり、エチケットへの表示が義務付けられている。
alcoolisation(アルコリザシオン):アルコール添加。酒精強化ワイン以外認められない。日本のワインには事実上規制がない。
chaptalisation(シャプタリザシオン):補糖。原料ブドウの糖度が足りない場合に酵母のえさとなる糖を添加すること。AOP、IGPでは同じブドウの果汁を冷凍して糖度を上げたものの添加以外は認められないことが多い。それ以外のワインでも厳しく規制されている。日本のワインには事実上規制がない。
soutirage(スティラージュ):澱引き。発酵の終わった原酒を静置して澱を取り去ること。新酒の段階で数回、熟成中にも数回行う。
collage(コラージュ)
:清澄。澱引きの終わったワインでも微細な浮遊物でまだ濁っているため、清澄剤colle(コル)を使って澄ませること。赤ワインには伝統的に撹拌した卵白blanc d’œuf(ブラン・ドゥッフ)が使われる。卵白に含まれるアルブミンはタンニンと結びつきやすいので熟成中の赤ワインの樽に投入撹拌して数か月置くと卵白と浮遊物が結合した澱が樽の底に沈む。
白ワインはタンニンが少ないため卵白は使わず、ゼラチンやベントナイトという泥が使われる。
bontemps(ボンタン):卵白を撹拌するための木製のボウルの俗称。ボルドーのメドックとグラーヴの有力な生産者団体は「ボンタン騎士修道会La Commanderie du Bontemps(ラ・コマンドリー・デュ・ボンタン)」という。
élevage(エレヴァージュ):熟成。発酵が終わったワインはろ過したのち熟成のために保管される
élevage en barrique(エレヴァージュ・アン・バーリック):樽熟成。
élevage en cuve(エレヴァージュ・アン・キューヴ):タンク熟成。樽の香りをつけないためにステンレスタンクで熟成する。白とロゼがほとんどだが、赤でも樽熟成の前段階で行うこともある。熟成期間はおおむね短い。
fût(フュ):樽。いわゆる洋酒樽。futaille(フュタイユ)ともいう。barriqueとほぼ同じ。オーク材の樽fût en chêne(フュタン・シェヌ)を使うことが多いが、新しい樽、使い古した樽、内面を焦がした樽などで特色を出す。最近はスコッチやバーボンの古樽を使うこともある。
tonneau(トノー):樽全般を指す名詞。
ouillage(ウィヤージュ):目減りした分のワインを補充すること。樽の中で熟成中のワインは時間の経過や澱引きによって目減りする。空気の隙間によるワインの酸化を防ぐための補充。
mise en bouteilles(ミザン・ブテイユ):瓶詰め。ワインの種類、性格によって、新酒のうちに瓶詰めするものから長期の樽熟成を経て瓶詰めするものまでいろいろ。
remuage(ルミュアージュ)
:動瓶。シャンパーニュの製法。2次発酵の終わったボトルを斜め下向けに立てて静置し、1か月前後毎日1/8ずつ瓶を回して瓶口に澱を集める作業。
dégorgement(デゴルジュマン):口抜き。シャンパーニュの瓶口に集めた澱をその部分だけ凍らせて炭酸ガスの圧力で除去する作業。
dosage(ドサージュ):シャンパーニュの口抜きのあと「liqueur d'expédition(リキュール・デクスペディション)=門出のリキュール」を足すこと。口抜きしたシャンパーニュの目減り分を補充するために加えるもので、同じワインの原酒や糖類、ブランデーなどで作る。門出のリキュールの糖度がシャンパーニュのbrut、sec、demi-secといった飲み口を決定する。

 
  大樽による醸し 1次発酵 果帽
 
  ピアージュ ピジェ 炭酸ガス浸漬法
 
  ルモンタージュ オー・ドゥ・ヴィー・ドゥ・マール オ  マールをまぶしたチーズ
 
  木製発酵タンク ステンレスタンク クヴェヴリ
 
  卵白による清澄 ベントナイト ボンタン騎士修道会
 
  動瓶 口抜き 門出のリキュール

 最後に少しワインの添加物のお話をしておきましょう。
 醸造の過程で必要があって加える糖や酒石酸などは単に添加物で、出来上がったワインに加えるものを食品添加物と呼び、各国で法による規制には差があります。日本を含め、もともとワインを文化と認識していなかった国では、できの悪いワインにアルコールや糖類、各種の酸に香料まで添加したものや、ワインとアルコールの混合物を水で薄めて甘味と酸味を加え、炭酸ガスを注入しただけの発泡性ワインのまがい物まで、原料の一部にワインさえ使っていればワインとして流通しているのも現実です。
 日本では酒税法上「果実酒」または「甘味果実酒」の範疇に入っていれば「国内製造ワイン」と認められるのでしょう。さすがに炭酸水で薄めたアルコールに甘味、酸味を加え、ブドウ香料で香り付けしただけのものはグレープチューハイですがね。話はそれますが、日本の大手メーカーのビールもドイツの「水と麦とホップだけでつくったもの」というビール純粋令の規定に従えばドイツではビールと銘打って売れないものが大半です。
 下にEU各国で使用が認められているワイン用食品添加物を少し紹介しておきます。ワインを選ぶときの参考にしてください。

Additif(m)(アディティフ):食品添加物。輸入されたワインの裏ラベルを見ると、ほぼもれなく酸化防止剤亜硫酸塩anhydride sulfureux(アニドゥリド・シュルフュロー)が添加されている。保存料としてソルビン酸acide sorbique(アシド・ソルビク)や、安定剤としてアラビアガムかアカシアの表示があるものもある。
フランス国内で販売されているワインにはBIOでなくても保存料無添加のものが多いが、亜硫酸塩は伝統的に使用が認められている。
アカシアはアカシア属アラビアゴムノキの樹脂を乾燥させたアラビアガムを言い換えただけで、乳製品や飲料の質を安定させる食品添加物として世界中で使用されている。痩せたワインに膨らみを持たせる効果があるため、年ごとにいやおうなく出る味の差を一定に保つ目的でEU各国でも安価なワインに広く使用されており、AOP やIGPの規定でも使用を認められている地域がある。フランス語の裏ラベルにはgomme arabique(ゴム・アラビック)と記載してあるが、日本で売られている輸入ワインに輸入元が貼る裏ラベルでは印象の悪さを隠すためにアカシアという表示にしている例が多い。

次回はワインづくりに用いられるブドウの品種を紹介していきます。