Ecole de français du Kansai -Traduction, Interprétariat, Guide-
   
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 5. Bordeaux(ボルドー): 1936。Gironde(ジロンド)県とHaute-Garonne(オート・ガロンヌ)県にまたがる産地全域をカヴァーする広域アペラシオン。
ボルドー市はヌーベルアキテーヌ地域圏の中心都市でジロンド県の県庁所在地でもある商業都市で、市内にワイン産地があるわけではない。市内を流れるガロンヌ川には大型船が停泊できる港があり、周辺で生産されるワインを積みだす港湾都市として発展してきた歴史から「ボルドーワイン」の名が生まれた。
ボルドーの歴史は古く、紀元前3世紀ごろケルト人が築いた都市ブルティガラが語源とされる。4世紀にはローマ属州ガリア・アクイタニアの州都となり、そのころからワイン生産が盛んになったという。ローマ帝国が崩壊すると5世紀にはゲルマン系ゴート人の支配地となり、8世紀にはイベリアのイスラーム勢力が侵入、10世紀にはヴァイキングが交易拠点を置くなど目まぐるしく支配者が変わった。
一番大きな出来事は12世紀にアキテーヌ公国の女公アリエノールがのちにイングランド王ヘンリー2世となるノルマンディー公アンリと結婚したことにより、ボルドーを含むアキテーヌは英仏百年戦争の結果フランス領に戻る15世紀まで英国の支配下に置かれたことだが、このことがボルドーワインの英国への販路拡大に貢献したことは言うまでもなく、英国人のボルドーワイン好きは現在も変わっていない。英国でよく飲まれるFrench claret(フレンチ・クラレット)はボルドーで作られるclairet(クレレ)という色の薄い赤ワインのことである。
ボルドー旧市街の歴史地区は2007年「Bordeaux, Port de la Lune(ボルドー、ポール・ドゥ・ラ・リュヌ=月の港ボルドー)」の名で世界文化遺産に登録された。また、市内にあるCathédrale Saint-André(サン・タンドレ大聖堂)、Basilique Saint-Michel(サン・ミッシェル大聖堂)、Basilique Saint-Seurin(サン・スラン大聖堂)の3か所が「フランスのサン・ティアゴ・デ・コンポステラ巡礼道」のうちトゥールの道の構成遺産として登録されている。
 もちろん周辺に広がる産地にもあとで紹介するサンテミリオンをはじめ数多くの歴史遺産が残されている。
Cathédrale Saint-André Basilique Saint-Michel Basilique Saint-Seurin

水鏡の広場Place de la Bourse 国立歌劇場Grand Théâtre
Victoire広場 Cailhau港
産地地図
 
正装したボンタン騎士修道会 

 ボルドーの6大産地と呼ばれる生産地は①Médoc(メドック)、②Graves(グラーヴ)、③Sauternes(ソーテルヌ)、④Côtes de Bordeaux(コート・ドゥ・ボルドー)、⑤Saint-Émilion(サンテミリオン)、⑥Entre-deux-mers(アントル・ドゥー・メール)の6つで、さらにその中も細分されてアペラシオンの総数は36ある。
ボルドー全体のAOC認証は1936年。6大産地とBordeaux clairet、Bordeaux roséなど種類と製法による3件のAOCと2018年現在6大産地の中を33に細分したアペラシオン個別のAOC、AOPを包括する。
長い歴史を持つボルドーの生産者団体でもっとも有名な団体はボンタン騎士修道会La Commanderie du Bontemps(ラ・コマンドリー・デュ・ボンタン)と呼ばれる。騎士修道会と言っても聖職者の集まりではなくメドックとグラーヴの生産者で構成されており、以下に紹介する生産者の格付けを決定するボルドーワイン委員会にも大きな影響力を持っている。しかし、近年メドックとグラーヴも含むボルドー全体の生産者からの格付けの決定に対する不公平感や実力者の専横に対する反発からボンタン騎士修道会を脱退する有力な生産者が出てきたりしてごたごたが続いている。
 ボルドー独自の評価基準として「格付け」がある。赤ワインはメドックから60、ペサック・レオニャンから1つのシャトーを選び、1級から5級に分けている。そのうち1級premier cru(プルミエ・クリュ)は、マルゴーの(シャトー・マルゴー)、ポイヤックのChâteau Lafite-Rothschild(シャトー・ラフィット・ロッシルド)、Château Mouton-Rothschild(シャトー・ムートン・ロッシルド)、Château Latour(シャトー・ラトゥール)、ペサック・レオニャンのChâteau Haut-Brion(シャトー・オー・ブリオン)のわずか5件で、ボルドー5大シャトーと呼ばれる。
白ワインの格付けは、ソーテルヌとバルザックから17のシャトーの甘口ワインを選び、特1級、1級、2級と3段階の等級に分けている。特1級premier cru supérieurは1件だけで、ソーテルヌのChâteau d’Yquem(シャトー・ディケム)が獲得している。

シャトー・マルゴー シャトー・ラフィット・ロッシルド シャトー・ムートン・ロッシルド
シャトー・ラトゥール シャトー・オー・ブリオン シャトー・ディケム

また、ボルドーワイン委員会では各産地の生産年ごとの出来を以下のように基本8段階で評価して公表しており、ホームページでチェックすることができる。
 ①Millésime exceptionnel(ミレジム・エクセプシオネル=特に傑出した年)、②Excellent millésime(エクセラン・ミレジム=卓越した年)、③Trés grand millésime(トレ・グラン・ミレジム=きわめて偉大な年)、④Grand millésime(グラン・ミレジム=偉大な年)、⑤Trés bon millêsime(トレ・ボン・ミレジム=とてもよい年)、⑥Bon millésime(ボン・ミレジム=よい年)、⑦Millésime moyen(ミレジム・モワイエン=中程度の年)、⑧Millésime médiocre(ミレジム・メディオクル=平凡な年)。
じつはそれに加えてたぶん誰も見たことはないと思うが、Millésime exceptionnelの上にさらに幻の評価がある。すぐ上はMillésime du siècle(ミレジム・デュ・シエークル=百年に一度の年)、最も上はMillésime du millénaire(ミレジム・デュ・ミレネール=千年に一度の年)。確かに極甘口ワインの中には100年以上保管されているものもあるが、現在飲み頃になっているものと比較して客観的な評価ができるはずがないし、千年ともなれば全くのおとぎ話である。
ボルドー全体で使用が許可されているセパージュは以下のとおり。
赤:カベルネ・ソーヴィニョン、カベルネ・フラン、カルメネール、メルロー、コット、プティ・ヴェルド。
白:ソーヴィニョン・ブロン、セミヨン、ミュスカデル。

6. Barsac(バルザック)ボルドー: 1936。ガロンヌ川左岸ソーテルヌ地区のコミューン。AOCソーテルヌの一部だが独立したAOCを持っている。
白:主要品種セミヨン。補助品種ソーヴィニョン・ブロン、ミュスカデル。シャトー・ディケムに代表される極甘口の貴腐ワインソーテルヌが有名。

7. Blaye(ブライ)ボルドー:1936。ガロンヌ川右岸コート・ド・ボルドー地区西寄りの41のコミューンで作られる赤ワインだけのアペラシオン。Côtes de Blaye、Premières Côtes de Blaye とともにAOC取得。土質は大きな石の混じる石灰質粘土。
主要品種:メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フラン。補助品種:コット、マルベック、プティ・ヴェルド、カルメネール。赤や黒のベリーの香り、タンニンは滑らかでフルーティ。まろやかな味わい。3~5年で飲み頃。

8. Bordeaux supérieur(ボルドー・シュペリゥール)ボルドー:1943。AOC Bordeauxで作られる赤ワインのうち、樹齢21年以上の古木から収穫したブドウで醸造し、できあがったワインを出荷前に1年以上木製の樽で熟成したもの。セパージュはAOCボルドーの許可品種。
白:ソーヴィニョン・ブロン、セミヨン、ミュスカデル、メルロー・ブロン。滑らかな甘口。

バルザックChateau de Myrat バルザックの畑

         
バルザックのソーテルヌ Château d’Yquem

               
ブライのシャトー ブライの要塞

          
ブライ赤 コート・ドゥ・ブライ ボルドー・シュペリウール赤

9.Cadillac(カディヤック)ボルドー:1973。アントル・ドゥー・メールのPremières Côtes de Bordeauxの一部。22のコミューンで構成される地区アペラシオン。
極甘口の白:セミヨン、ソーヴィニョン・ブロン、ミュスカデル。若いうちは黄金色で年を経ると琥珀色になる。アプリコット、柑橘、スイカズラやアカシアの花、蜂蜜、ヴァニラなどの甘いアロマを持つ。ワインの糖度は51g/ℓある。
食前酒としてドライフルーツやロックフォールに、食後酒としてインドや中国風のエキゾチックな菓子と、また、メロンの種をくりぬいたくぼみに注いで前菜にしたりもする。鶏肉や豚肉のモリーユ茸ソースやプラムソースなど甘辛い味付けの料理に合わせるのもいい。

10. Canon-Fronsac(カノン・フロンサック)ボルドー:1936。サンテミリオンのFronsacとSaint-Michel-de-Fronsacという2つのコミューンで作られる赤ワインだけの村名アペラシオン。土質は礫混じりの石灰質粘土。
セパージュはメルロー、カベルネ・フラン、カベルネ・ソーヴィニョン。木苺や干しアンズの香り。長熟タイプで、濃縮感と長い余韻、ビロードのような滑らかさを持つ。飲み頃は5~12年。