Ecole de français du Kansai -Traduction, Interprétariat, Guide-
パリに戻って考えてみた2 パリに戻って考えてみた3
はじめに
やっぱりフランス旅は
いきなり面白い
ブルトン
またはケルトの国
メガリス Megalithes
ブルターニュ公国の古都
小さな海 
―mor bihan―
メガリス研究発祥の地
地の果て Finistere
ブルトンの村・建築
ブルターニュの最深部
―フィニステール北岸―
谷の町モルレー Morlaix
パリに戻ってさらに考えてみた
パリに戻ってさらに考えてみた

 パリに戻る日の朝、ロロールでコーヒーを飲みながらアランとまた少し話をした。私たちのバカンスももう終わりだ。モルレーに来てよかったよ。いつまでも思い出に残る町だし、また必ず来るよ。なんてことをしんみり言い、アランも「ああいつだって待ってるから、俺たちは友達になったんだ。」と言ってくれ、抱き合って別れを惜しんだあと駅に向かった。
 パリに戻ると、ブルターニュとは大違いの喧騒の世界だ。サン・ジェルマン・デ・プレにあるウーロプ・サン・セヴランというホテルがパリでの定宿になりつつある。ノートルダム大聖堂やルーブル、オルセーなども指呼の距離にある便利なところだからだ。各国料理の店がたくさんある地区で人種の坩堝パリの縮図みたいなところだが、むせ返るようなエネルギーもかえって居心地は悪くない。
 なんだかラーメンが食いたくなって夕食は中華料理屋へ出かけた。呼び込みのお兄さんが「ニーハオ、アニョハセヨー、コンニチワー」だと。アジアの国々も力をつけてきたんだ。店はタイ系華僑の経営で、料理は大して旨いとは思わなかったが、ラーメンはちゃんとラーメンの味がした。

午後8時を過ぎても明るいセーヌ河岸をぶらぶら散歩しながらノートルダムの前を過ぎ、前回修復工事中で見られなかったサン・ジャック塔に向かった。ふう、予想はしていたがやっぱり工事中だ。文化財の修復は、材料や技法を当初のものにできるだけ近づけるため大変な時間がかかる。このあと何年かかるんだろうと思いながらブルターニュのメガリスのことを思い出していた。今回の旅のきっかけとなった、ブルターニュのメガリスがなぜ世界遺産になっていないのか。フランス政府はなぜ暫定リストにも挙げていないのか。という疑問に対する一定の答えを導き出すヒントが旅の中で見えてきたような気がする。

 それ自体がきわめて貴重なもので、所在国の国内法によって手厚く保護されているのは当然のこととして、世界遺産になる条件として最も重要視される点は、その真正性である。英語でauthenticity(本物性、確実性などとも訳される) というこれまで日本ではあまり訳語として使われたことがないこの用語が意味するところは大変厳密なもので、法隆寺が世界遺産に登録される際に最大のネックとなりイコモスで大議論になった概念である。世界遺産の中の文化遺産についてはもともとヨーロッパ中心史観がその根底にあり、石造建築を主体とする教会や宮殿を第一の対象と考えていたきらいがある。ヨーロッパ以外の歴史遺産でも石造物であれば後世の修復の比率が知れているためオーセンティシティーが問題になることは少なかったといえる。ところが、世界最古の木造仏教建築として登録申請した法隆寺は、木造建築であるがゆえの宿命として、老朽化した部材の取り替え、瓦の葺き替え、細部の様式の変化などが長い時代積み重なって残されてきたものである。当然の帰結として建築当初の部材が残っている比率は石造建築に比べて低くなる。この点が真正性に問題ありとされたのだ。
 部材が腐ってきたからといって全体を建てなおすのではなく、古い部材を大切にしながら、その時点における最小限の取り替えを行うことで歴史的建造物を守るという千年以上続く日本独特の手法が、古い木造建築を保存していくための最良の方法であるということ、したがって今ある法隆寺は紛れもなく本物なのだということを世界遺産委員会に認めさせるために、文化庁や日本ユネスコの関係者は大変な努力を払ったのである。