Ecole de français du Kansai -Traduction, Interprétariat, Guide-
Ⅱ. ガリア・ローマへ(2010拡大するガリア・ローマ(2010))
Ⅱ. 拡大するガリア・ローマ(2010)
ガリア・ローマ再訪
ガリア・ローマ再訪写真
美食の都リヨン
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美食の都リヨン 写真
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ローヌの港湾都市
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ローヌの港湾都写真

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黒い聖母と岩山の礼拝堂
航空写真で見つけたローマ遺跡
泉の都エクス   写真  
教皇庁のあった町 
―アヴィニョン―
シャトー・ヌフ・デュ・パプ
ブドウ畑の中のいい宿
ガリア・ルグドゥネンシスからパリへ
Ⅰ. ガリア・ローマへ(2007)
Ⅲ. 三たびガリア・ローマへ(2016)
旅の終わりに
あとがき

 ローヌワインの最高峰 ―シャトー・ヌフ・デュ・パプ―

 ローヌワインの生産地は北のヴィエンヌから南はアヴィニョンまで、東西南北約200kmに及ぶ広大なもので、ボルドーBordeaux 、ブルゴーニュBourgogne と人気を3分する大産地だ。大きく北部ローヌと南部ローヌに分けられ、コート・デュ・ローヌCôtes du Rhône 全体としてのAOC取得は1937年とフランスワインの中でも最も古く、さらに43のアペラシオンが個別のAOPを取得している。赤ワインの主要品種は、シラーSyrah 、グルナッシュGrenache 、ムールヴェドルMourvèdre の3種で、別々に醸造したものをアッサンブラージュassemblage (ブレンド)して仕上げるためバランスがよく、ブドウの出来が今一つの年でも大きく質が劣るということはない。コート・デュ・ローヌの赤はだいたいが長熟タイプで10年ほどで飲み頃になるものが多い。とびきりいいものになると50年も熟成を続けるものもあるというから驚きだ。
蛇足になるが、AOC(アペラシオン・ドリジーヌ・コントローレAppellations d'Origine Contrôlée )というのは「原産地呼称統制」と訳され、フランス農務省が法に基づいて定めた品質保証票である。AOCの認定は「原産地呼称委員会Institut national de l'origine et de la qualité 略称INAO」という国の機関が非常に厳しい条件を課して審査し、認定後もずっと審査を続けて少しでも条件を満たさなくなればその生産者は認定を取り消される。認定と取り消しの報告書はINAOのホームページで公開されており、数10ページから時に100ページを超えるようなものもある。1件ごとに細かく定められた規定は日本のJASなんか比較にならない厳しさだ。
AOCの起源は15世紀のロックフォールチーズに関する議会布告にさかのぼる。ルイ14世が「チーズの王にして王のチーズである」とたたえたロックフォールチーズは昔からロックフォールを名乗るたくさんの類似品が出回っており、その取り締まりのために「ロックフォール・シュル・スルゾン村Roquefort-sur-Soulzonで伝統的な方法で作られたもの以外はロックフォールを名乗ってはならない」という議会布告が出されたのだ。
INAOは1935年にワインの品質管理のために創設されたもので、生産者、消費者、行政官によって構成されている。現在は農産品全体を対象としているが、認定品の大半はワインとチーズが占めており、食肉、海産物、青果も少し含まれる。変わったところでは家畜の飼料である乾草が1件あって面白い。
この制度、国のブランド戦略として優れたものであることからEU各国でも取り入れるところが増えてきたため、今ではAOP(アペラシオン・ドリジーヌ・プロテジェAppellations d'Origine proétgée=原産地呼称保護)としてEU共通の制度になっており、フランスワインやチーズのラベル表記も最近はAOPに統一されてきている。
それ以外にもフランスにはIGP(アンディカシオン・ジェオグラフィーク・プロテジェIndication Geoguraphique proétgée=地理的表示保護)や、ラベル・ルージュLabel Rouge=赤ラベル、AB(アグリキュルチュール・ビオロジックAgriculture Biologique=有機農産品)といった法の定める様々な品質保証票があり、うまい地酒や安心な食材を求める際の参考になっている。
ロックフォールチーズの話をしたが、もう一つのフランスを代表するチーズであるカマンベールチーズのほうは少し違っている。もともとノルマンディー地方のカマンベール村で造られ始め、ノルマンディーの特産になっていたものだが、人気が高くなるとともに各地でカマンベールを名乗る類似品が作られるようになった。地元が製法を秘匿したりせず、ブランド名を守ろうとする意識も低かったためAOCの申請が遅れたことが原因だと言われているが、これにはカマンベールチーズの歴史に根差す理由があるのだと思う。カマンベールチーズの起源はフランス革命を逃れてきた一人の修道士が保護に感謝して村の女性に昔から作られていたブリーという白カビチーズの作り方を伝えたことだという。厚意と感謝から生まれたものだということが製法を秘密にしようとも名前を守ろうともしないという緩やかな意識の醸成につながったのではないかと考えている。
蛇足が長くなった。
ローヌワインの最高峰の産地として名高いシャトー・ヌフ・デュ・パプChâteauneuf-du-Pape 、「教皇の新しい城」という意味のこの町、前回の旅ではパスせざるを得なかったところだ。ここのブドウ畑一番の特徴はガレgalet と呼ぶ大きな河原石が敷き詰めてあることで、この石が昼間太陽の熱を蓄え夜の冷え込みからブドウの木を守るため糖度の高い素晴らしいブドウが実るのだという。
 村の周りには広大なブドウ畑が広がっており、村内にはローヌワイン好きなら誰もが知るようなシャトーやドメーヌがあちこちに点在している。村の目抜き通りにはワインショップや生産者の直営店が軒を連ねていてどこに入ろうか迷ってしまう。昼時だったのでサンドゥイッチでも食べながら作戦を練ろうと広場に面したパン屋のカフェに入ったら、ちょうど収穫の最盛期らしく季節労働者らしい逞しい男たちがバゲットを10本、20本と買っていくのに出くわした。
 結局そのカフェの近くにあったシャトー・ヌフ中のワインを扱っているワインショップで、一番のお気に入りラ・ロケットLa Rocquète の2005年を1本仕入れた。もう一軒表通りに面した日本では聞いたことのないジャン・ロジェールJean Roger というドメーヌの直営店であれこれ試飲させてもらって、香りがよくタンニンが強めであと数年で飲み頃になりそうな2006年を選び、あと、試飲はさせてもらえなかったがちょっと古いものも試してみたいと思って1985年のも買ってみた。この時のワイン、すでに全部胃におさまってしまったが、ラ・ロケットは言うまでもなく最高レベルのうまさだった。ジャン・ロジェールの2006は10年目に抜栓したのだが、予想どおり強めだったタンニンが甘苦くこなれて、逞しいがふくらみのあるフルボディに育っていた。自分の目利きが当たった時の至福感は格別だ。1985年のは半年ほどセラーで休ませてから抜栓したが、少しレンガ色に変色して香りも弱くなっていた。やはり20年以上いい状態を保つのはむつかしいのかな。