Ecole de français du Kansai -Traduction, Interprétariat, Guide-
Ⅱ. ガリア・ローマへ(2010拡大するガリア・ローマ(2010))
Ⅱ. 拡大するガリア・ローマ(2010)
ガリア・ローマ再訪
ガリア・ローマ再訪写真
美食の都リヨン
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美食の都リヨン 写真
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ローヌの港湾都市
航空写真で見つけたローマ遺跡
泉の都エクス  写真
教皇庁のあった町 
―アヴィニョン―
シャトー・ヌフ・デュ・パプ
ブドウ畑の中のいい宿
Ⅰ. ガリア・ローマへ(2007)
Ⅲ. 三たびガリア・ローマへ(2016)
旅の終わりに
あとがき

 美食の都リヨン 3

 丘から下って旧市街をぶらつきながら、さてどこへ行こうかと考えた。リヨンは中世以降絹織物で栄えた町だ。やはりここは織物装飾芸術博物館Musées des Tissus et des Arts Décoratifs de Lyonを押さえておかねばなるまい。18世紀の建物を改装したこの博物館には古代中国の絹織物に始まってオリエントやエジプトなどの古いものから中世ヨーロッパの毛織物、教会の壁を飾っていたタピストリーなど様々な織物が展示されている。
 特にペルシャ絨毯のコレクションが見事だ。リヨンを中心とするヨーロッパの絹織物も数多く展示されているのだが、10世紀以前のものは染めも織りも極めて稚拙なものが多い。それ以降のものも刺繍は精巧なのだが織りに関しては日本や中国のものに到底及ばない。思わず「勝った」とつまらないナショナリズムが頭をもたげてしまった。この博物館の隣が家具や調度品をテーマにした装飾芸術博物館なのだが、なんだか歩き疲れて表面をさっとなでるように見ただけなのであまり印象に残ったものはない。
 フルヴィェールの丘と旧市街、それに1区の一部が「リヨン歴史地区Site historique de Lyon 」として1998年世界文化遺産に登録された。
 ここでいったんホテルに戻ってひと風呂浴びてから「さあ、美食の街を堪能するぞ」と意気込んで夕食に出かけた。といってもポール・ボキューズなんかに行けるわけはなく、お目当てはル・ブションle Bouchon だ。これは店の名ではなくリヨンの町なかのどこにでもある庶民的な居酒屋の総称で、ブションはワインのコルク栓の意味である。旧市街を散策している間にそんな店がたくさん集まっている界隈に目をつけておいた。サン・ジャン大聖堂の裏通りを居酒屋が埋め尽くしていてどの店も地元客と観光客で大繁盛だ。店の表のメニューを書いた看板と客の食べているものをのぞきながら品定めをしていく。魚のすり身で作ったはんぺんのようなクネルquenelles という料理はどこの店にもあるようだ。食べたいのはトリップtripe という牛の胃の煮込みで、これは店によって作り方が少しずつ違う。さらっとしたスープ仕立てで出している店のが旨そうに見えたのでそこに決めた。サラド・リヨネーズを一つと連れ合いはカワマスのクネル、ぼくは当然トリップを注文した。どれも前菜みたいなものだがたぶんボリュームがすごいだろうと思ってこれだけにしたのが正解。たっぷりのベーコンと半熟のポーチドエッグが乗ったリヨン風サラダは二人で分け合っても十分な量だし、クネルも大人の握りこぶしより大きい。トマトたっぷりのスープにパセリを散らしたトリップがまた旨い。中身はハチノスという牛の第2胃と大きめに切ったジャガイモだけだがハチノスの歯ごたえがちゃんと残っていて全く臭みもない。クネルはふんわりと焼きあげたものをクリームソースで仕上げてあってこれもなかなかだ。
 カラフで頼んだ地の赤ワインとの相性もいい。このカラフがル・ブション独特のもので、ワインの瓶の形をしているが、底がやたら分厚い。500mlを注文しても中身は450mlほどで、その差が店の儲けということになっているらしい。まあ1本5ユーロほどだから、リヨンの居酒屋文化として楽しめばいいだろう。