Ecole de français du Kansai -Traduction, Interprétariat, Guide-
Ⅰ. ガリア・ローマへ(2007)
はじめに
旅のはじめでいきなりつまずいた
地中海世界
ローマ属州
ガリア・ナルボネンシスの玄関 ―マルセイユからサン・レミへ―(1~3)
写真
天空の城と石の家
ラヴェンダー畑に建つセナンク修道院
ワイン街道をヴェゾンへ
オランジュ ―ローマが息づく街―
山上の砦
ユゼスからポン・デュ・ガール
ガリア・ナルボネンシス最初の植民都市
聖地への道の起点 ―サン・ジル―
ローマ、聖地、そしてゴッホ
港町マルセイユ
Ⅱ. 拡大するガリア・ローマ(2010)
Ⅲ. 三たびガリア・ローマへ(2016)
旅の終わりに
あとがき
 ガリア・ナルボネンシスの玄関
         ―マルセイユからサン・レミへ―
(3)

 さて、その東側の谷あいにはグラヌム遺跡Site archéologique de Glanum が広がっている。ここはローマの植民都市建設以前からガリア人の信仰する聖なる泉があった場所で、ギリシャ風の街が築かれており、マッサリアと盛んに交易をおこなっていたという。ローマ人がここをさらに整備して上下水道完備の都市を建設し、聖なる泉の場所にはニンフ神殿が建てられた。3世紀ごろのゲルマン人の侵攻で街は破壊されたのだが、その後中世の街は今の旧市街の方に再建されたため、ローマの街がまるまる遺跡として残されたのである。80年以上にわたる発掘調査が今も続けられており、しだいにその全貌が明らかになってきている。遺跡の入り口近くの高台にヴィジターセンターがあり、雰囲気のいいカフェテラスで遺跡を眺めながら休憩や食事もできる。中には模型やパネルとともに遺物も展示してあって、遺跡の概観をつかむことができる。遺跡に関する本なども売っているのだが、面白かったのはローマの処方で作ったハーブソルトやローマの復元ワインなど話題づくりにはもってこいの土産物だ。
考古学博物館は旧市街にあって、グラヌム遺跡の出土品をそれこそ山のように見ることができる。こちらはちゃんとした系統的な展示をしていて、皇帝の肖像など大理石の彫像の重要なものや上質な陶器などはローマ本国から運んできていたことなどが理解できた。面白いと思ったのは皇帝の像の頭部が取り外せるようになっていることで、首から下は右手を掲げたアウグストゥスの像がモデルになっているが、皇帝が代わったら首だけすげ替えるようにしてあるのだ。ローマ人という連中は意外に合理的だったんだね。
 グラヌム遺跡はアルル周辺のローマ遺跡としての追加登録を目標に、2002年世界文化遺産国内推薦リストにあげられている。
 旧市街のサン・マルタン教会Collégial Sainte Martin は、ゴシックとドーム様式が融合した14世紀の建築で、ロマネスクではないので期待していなかったのだが、入ってみるとこういう変わった様式もなかなかいい。パイプオルガンがすごく立派だ。
 この日の泊りはグラヌム遺跡のそばにあるヴィラ・グラヌムというちょっといいホテルだ。ちゃんとゲートがあって広い駐車場もある。きれいな中庭ではアーモンドの花が満開で、藤の花もほころび始めている。ヴィラ型式の部屋は石造りで十分な広さがあり、ゆったり過ごせそうだ。フロントにいたおやじが「日本人は珍しいけど、去年日本の有名な女優がロケにきてうちに泊ってたからサインをもらったんだ」と言ってサイン帳を見せてくれた。大竹しのぶと書いてある。そういえばなんかフランス在住の日本人女性役で出演したドラマが話題になっていたような気がするが、たいがいが下らないテレビドラマというものを見ないので内容は知らない。我々二人とも「ふーん」ぐらいの反応だったのでおやじは拍子抜けしたみたいだ。
ここの料理はうまかった。基本イタリア料理にプロヴァンスのエスプリを加えたといった感じで、ニンニクとハーブ使いが抜群だ。前菜は赤肉のカヴァイヨンメロンに生ハムを添えたものとコッパにカッテージチーズをかけたものの盛り合わせとホタテのグラタン。主菜はチーズ入りのラビオリにキノコとクルミのソースをかけたものと仔羊肉の煮込みだったが、写真を撮り忘れるぐらい美味かった。カラフで頼んだ南仏のロゼとの相性も良かった。デザートはカシスのソースをかけたフロマージュ・ブラン・フレとガトーショコラだったが、これもなかなかだ。
ちなみに翌日の昼食もこのホテルのカフェテラスで牛すね肉のシチューとパスタとピッツァを分け合って食べたが、これもうまかったなあ。