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ローマ、聖地、そしてゴッホ 1
アルルArles は大ローヌの下流に築かれたコロニア・アレラーテというローマの植民都市がその前身で、ニーム以上にローマが色濃く残っている古都だ。しかも巡礼道の起点となる聖地であり、旧市街のほぼ全域が「アルルのローマ遺跡とロマネスク様式建造物群Arles, monuments romains et romans 」として1981年世界文化遺産に登録されている。ファン・ゴッホゆかりの場所もたくさんあって見どころ満載だ。こりゃとても一日では見きれないぞということで2泊することにした。旧市街はさほど広くないうえに石畳の細い道が入り組んでいるから、徒歩とタクシーで見て回ることにしてアルルの駅でレンタカーを乗り捨てた。ホテルも旧市街の中心フォーロム広場Place du Forum に面したオテル・ドゥ・フォーロムを予約してある。駅で拾ったタクシーでホテルに向かったが、案の定ものすごく道が狭いうえ一方通行がややこしい。広場に面した2階の部屋は広くて居心地がよく、窓からはゴッホが夜のカフェテラスに描いたカフェの黄色いテントが真正面に見える。さっそくそのテントの下でコーヒーを飲んでから見物に出かけた。
フォーロムとは古代ローマの政治的集会場を含む広場で植民都市の中心だ。ここは前40年ごろに建てられたのだが、当時の建築の一部が隣のホテルの壁になっているのがすごい。ここでは地下の回廊施設も発掘されて公開しているが、そちらは修復中で道に面した小さな窓からほんの少しのぞき見ることしかできなかった。この日はもう夕方だったのでサン・トロフィム教会Église saint-Trophime だけ見に行った。ここが「巡礼路」の起点だ。レピュブリック広場Place de la Republique に面して建つ12世紀創建のこの教会はプロヴァンスで最も美しいと言われている。広場の中心にはオベリスクが立っている。当然エジプトから持ってきたものだが、パリのものとは違ってこちらはアウグストゥスのエジプト征服を記念してローマ人が運んできて建てたものだというからこれまたすごい。オベリスクの台座は噴水になっていて、ローマ風の人面彫刻の口から水が噴き出している。
教会のファサードは素晴らしい彫刻で埋め尽くされている。タンパンのキリスト像の周囲には4人の預言者を象徴する動物が彫られ、入り口脇の12使徒像も見事だ。中に入ると心廊は装飾の少ないシンプルな造りでしんと静まり返った荘厳な空気で満たされている。祭壇の横の格子で仕切られた聖遺物室には聖トロフィムや聖エティエンヌをはじめとするおおぜいの聖人の遺骨がガラス張りの聖遺物箱に納められていて拝むことができるのがなんだかすごい。「オックの国」でも述べたことだが、初期のキリスト教では偶像崇拝を禁じていたにも関わらず、磔刑像や聖母子像に始まり、いつの間にか教会は偶像だらけになった挙句、聖人の遺骨やミイラを聖遺物として拝むようになったことを堕落と考えないのはどうなんだろう。
サン・トロフィム教会に収められている聖人たちの遺骨もそのほとんどがこの後訪ねるアリスカン墓地を暴いて持ってきたものだ。まあ、キリストが磔になった十字架の破片だとか聖母マリアの乳だとか眉唾なものが多い聖遺物の中で聖人の遺骨は来歴がしっかりしたものだと言えなくはないが、本来の信仰とは相容れないはずの聖遺物の奪い合いで戦争までした例があるんだから、ぼくのような無信仰な人間の理解を超えている。
暗くなったので「夜のカフェテラス」の写真を撮りに戻って、ついでにそこで久しぶりに仔羊の腿肉を焼いたジゴ・ダニョーGigot d’Agneau とサラダの夕食を食べたのだが、ちっともうまくない。腹立たしいほど不味い。ジゴ・ダニョーとは名ばかりのパサパサの肉には骨もついていない。ゴッホにあぐらをかいた観光客目当ての三流店に成り下がっている。
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