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港町マルセイユ 4
我々の最初のガリア・ローマの旅はこれでおしまいだ。あとはカシのワインとチーズやお菓子を少し土産に買って、港をぶらついた後ホテルに戻ってひとっ風呂浴びたら締めの夕食に出かけよう。
いろいろ考えたが昼食がうまかったのでまたエカイエにでかけた。前菜にムールのシャンパン蒸しとスモークサーモンをとり、メインはタラのプロヴァンス風クリームソースに温野菜を添えたものと、ぼくは最後はやっぱりフランスの牛肉も食いたいということでアントルコートにした。タラの付け合わせは炊いたカマルグの米とトマト、ズッキーニ、アンティーヴを焼いたものだったが、アンティーヴの苦みがニンニクとハーブのきいたクリームソースとマッチしてとてもいい。だが、米ははっきり言って芯のあるのただの水煮でご飯と呼べるような代物ではない。米をといでもいない。日本人の口には合わないなあ。
アントルコートには例によって山のようなフライドポテトが添えてある。サシの入っていない牛肉は決して柔らかくはないのだが、しっかり熟成してあるので噛みしめるといい味だ。
ワインは昼と同じドメーヌの2006年のロゼにした。白より甘いが間違いなくうまい。この旅でカシのワインは都合3本しか飲んでいないが期待していたとおりですっかり好きになってしまった。
デザートに選んだレモンのタルトとシャーベットもさわやかさが本場南仏らしい。
食後酒をブドウの搾りかすから造った焼酎オー・ドゥ・ヴィー・ドゥ・マールにしたらそんなものを頼む日本人が珍しかったのか、勘定を済ませていやーごちそうさまって席を立とうと思ったらスキンヘッドのおやじがもう一杯飲めとおごってくれた。このレストラン、内装や飾ってある写真などから見てエジプト系移民の店らしい。そういえばこのおやじハムナプトラという映画に出てきた悪神官そっくりだった。
もうひとつ映画がらみの話を。タクシーというフランス映画はマルセイユのタクシードライバーがプジョーの改造タクシーで大暴れする荒唐無稽なコメディだが、翌朝ホテルから空港まで雇ったタクシーの運ちゃんがまさにそれだった。車は日本ではどちらかというと女性向きのコンパクトカーで売っているトヨタ車だったが日本とはぜんぜん違う仕様なんだろう。ハイウエイに乗った途端に背中がシートに押し付けられるくらい加速して他の車を縫うように追い越していく。メーターを見たら160㎞以上出てるじゃないか。運転席にぶら下がってる匂い袋が左右に大きく揺れている。「それラヴェンダーかい?」って聞いたら、「ああ、この香りをかぐとリラックスして心が落ち着くんだ。嗅いでみるかい」って、後ろ向くんじゃないよ。言ってることと運転と全然違うやないか。そんなわけで空港には15分ほどで着いた。朝の時間帯、普通に走れば30分はかかる距離なんだけどね。
帰国便はパリの乗り継ぎもスムーズで快適なフライトだった。今回の旅はガリア・ナルボネンシスの南半分を巡ったにすぎないが、どこへ行ってもローマに圧倒され続けた旅だった。消化するには少し時間がかかるだろうが、旅の途中で仕入れた本を見てもローヌ川を遡るとまだたくさんの植民都市があり、下流域とは違った重要性もあるようだ。ローヌ中流域に広がるローマの道はまたブドウ栽培地拡大の道でもあったようだ。今回訪ねることができなかったいくつかのワイン産地にもぜひ行ってみたい。帰りの飛行機では早くも次回のガリア・ローマの旅のたくらみが頭の中を渦巻いていた。
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