|
ワイン街道をヴェゾンへ 2
中腹に16世紀の貴族の邸宅を改装したル・ベフロワHostellie le Beffroi (鐘楼亭)という小さなホテルがある。ホテルの前の狭い駐車場が満杯だったので、山の下の駐車場まで若いマダムが先導してくれたのだが、来た道よりもっと狭くて急な道を下っていく。つるつるになった石畳でちょっと横滑りしたりしてヒヤヒヤものだった。駐車場についてほーっとため息をついたらこのマダム、「あなた運転がうまいから大丈夫。マルセイユで運転する方がもっと怖いわよ。」なんて笑いながらおっしゃった。このホテル、16世紀のままの石の螺旋階段や広い客室の古い家具などなかなか味がある。料理にはとても力を入れているようで、天井の低いワインカーヴを改装したレストランもいい雰囲気だ。前菜はアルティショーに乗った燻製のタラと、アサツキとピーマンのみじん切りを散らしたきのこのパスタ。主菜はヒメジのポワレ焼きリンゴ添えとハーブの詰め物をしたウサギのロティをチョイスしたが、盛り付けも美しく味も最高だった。ワインはミディアムボディのドメーヌ・ラスパイユ2003年というジゴンダスの赤を合わせて見た。樽香と黒い果実の香りにタンニンも十分で酸味が程良く、これがまためっぽう美味い。スパイスとハーブを効かせたウサギとの相性はぴったりだ。デザートにはフロマージュ・ブラン・フレとアイスクリームやシャーベットの盛り合わせを頼んだのだが、ラベンダーを練りこんだアイスクリームはなんか石鹸をなめてるみたいでいただけなかった。
翌朝街を散策してみた。車の通れない細い路地も全部石畳でところどころ石段になっている。主要な辻にはそれはそれは小さな広場があって趣のある石造の泉水がある。昔はここで飲料水や生活用水をまかなっていたのだ。建物の壁に積まれている石をみると彫刻の施されているものが混じっていて、ローマ遺跡から運んできたものだと分かるのも面白いところだ。
岩山の頂上には12世紀に建てられたトゥルーズ伯城Château des Comtes de Toulouse の廃墟がある。中に入ることはできないのだがここからの眺めは素晴らしい。きらきら光るウヴェズ川の対岸にはローマ遺跡と大聖堂、振り返ると山裾一面のブドウ畑が広がっている。
この岩山は石灰岩の山塊なのだが、見ると岩に板状の摂理が入っている。街の建物の壁が切り石積みではなく板状の割石を積んでいるものが多いのはすぐそばで材料を調達できたからだろう。道路の敷石にも使われている。逆に考えると、ローマの建築やトゥルーズ伯城には節理のない石灰岩のきれいな切り石が使われているので、よそから運んできたものだということがわかる。
この日は日曜日だったので昼ごろまでゆっくり街を散策したり復活祭のミサを見物したりして過ごし、この旅で一番見たかった世界一残りのいいローマ劇場があるオランジュに向かった。
|