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天空の城と石の家
翌日は北東に向かってヴェゾン・ラ・ロメーヌを目指す。カヴァイヨンでデュランス川La Durance を渡り、北上するとすぐにリル・シュル・ラ・ソルグL’isle-sur-la-Sorgue という町に入る。「ソルグ川の島」という名のとおり何本も枝分かれしたソルグ川に挟まれた中州に形成されたこの町は、街全体がいろんなアンティークの店で埋まっている。陶器やガラス器の店、銀器の専門店、骨董家具、染織、玩具、ドアや窓の鎧戸などの建築部材まである。骨董好きにはたまらない街だろう。土曜日ということであちこち品定めする客であふれていた。街の中を流れる川の水がとてもきれいで、長い水草が揺らいでいる。そこここで子供たちやおじいさんがのんびり釣りをしている風景が骨董屋街の喧騒と対照的で印象に残った。
この街から東に15㎞ほど走るとフランスの最も美しい村のひとつで、プロヴァンスで一番有名な鷲の巣村ゴルドGordes に着く。南に向かって張りだす岩山に城壁に囲まれた村がへばりついている。今は村の入り口まで広い県道が整備されているが、かつては岩山の下から登る急なつづら折れの山道が唯一のアクセス路で、馬でも大変だっただろうと思う。村の中は石段や急坂がいたる所にある狭い石畳の道が入り組んでいて車は入れない。
鷲の巣村ゴルド
ゴルドの始まりは紀元前後にケルト人が築いたオピドゥムoppidum(山砦)だという。8世紀ごろから繰り返されたアラブの侵入からふもとの村の住人が逃れるために村が造られ、11世紀ごろには山頂に城が建てられて村全体を囲む強固な城壁が整備された。今も随所にその城壁の名残を見ることができるが往時の面影はない。20世紀になってこの村を再び見出したのがマルク・シャガールだ。シャガールはこの村の魅力にほれ込み、友人たちと何度も訪れたという。そんな経緯で多くの芸術家たちが移り住んでアトリエを構えるようになり、今も村の中には何軒ものギャラリーがある。もちろん昔からここに住んでいる人たちもいるのだが、観光業に携わっていない人々の暮らしはそう楽ではなさそうだ。空き家もけっこうあるみたいで、金持ちが別荘として買うことも増えてきているという。ゴルドは最初にフランスの最も美しい村に認定された村のひとつである。
ゴルドのすぐ西にヴィラージュ・デ・ボリーLe Village des bories という板石を積み上げただけの中世の家屋を集めた野外博物館がある。ボリーはかつて南仏から南西部のいたる所で見られた伝統的家屋だが、屋根まで板石を持ち送り式に積んだドーム状の家で、基本的な平面形は長方形である。
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