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ガリア・ナルボネンシスの玄関
―マルセイユからサン・レミへ―(1)
乗り継ぎ便を逃した翌朝まだ早いうちに到着したマルセイユの空港は抜けるような好天で、4月なのにシャツ一枚で過ごせるほど暖かい。楽天的な性格というのは便利なもので、エクスがすっ飛んでしまったことなどもう半分ぐらい忘れてる。空港バスでレンタカーを予約してあるTGVのエクサン・プロヴァンス駅に向かい、2日目の日程どおりに旅を開始した。
旅の主要目的はローマ遺跡と南仏ロマネスク建築を訪ねることだ。よく知られたローマ遺跡以外にも、この旅にはオピドゥムと呼ぶローマ軍の山砦やプロヴァンスの3姉妹と呼ばれるシトー会の修道院のうち二つ、フランスの最も美しい村のひとつであるゴルドなど、見どころをいっぱい組み込んである。てんこ盛りのハードな行程の始まりだ。
この日はサン・レミ・ドゥ・プロヴァンスSaint-Rémy-de-Provence に向かうのだが、その途中エクスから北上してデュランス川La
Durance に突きあたり、川沿いを西に進むとラ・ロック・ダンテロンLa Roque-d’Anthéron という村がある。ここにプロヴァンスの三姉妹の一つとして知られるシルヴァカーヌ修道院L’abbaye
de Silvacane がある。すでに遺跡化しているが南仏ロマネスクを代表する建築のひとつで、清貧を旨としたシトー会らしいシンプルでどっしりした外観が清々しい。12世紀に建設された教会の中に入ると、回廊などはロマネスク様式だが、心廊の頂部が少し尖ったアーチや丸窓には初期ゴシックの要素が見られる。フレスコ画もカラフルなステンドグラスも彫像もなにもない。装飾を全く排除した内部には十字架すらない。まさに祈りと労働と瞑想のための空間である。何人かの観光客がいたが、しんとした時間が流れているだけで、時折シャッター音だけがやけに大きく響いた。
プロヴァンスの三姉妹とは、ロマネスク建築の美しさで知られるシトー会の三つの修道院のことで、エクスの東方にあるル・トロネ修道院L’abbaye Du Thoronet とアヴィニョンの東にあるセナンク修道院L’abbaye
Notre-Dame de Sénanque と、ここシルヴァカーヌ修道院のことだ。南フランスや南西フランスでは、ここ以外でもいたるところでシンプルな構成が美しいロマネスク建築に数多く出合うことができる。
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