Ecole de français du Kansai -Traduction, Interprétariat, Guide-
Ⅲ. 三たびガリア・ローマへ(2016)
フランスの絶景 ―サント・ヴィクトワール山―
ローヌワイン街道と美しい村々
オークルの村 ―ルシヨン―
特別な白ワイン ―ボーム・ド・ヴニーズ―
ヴァケラスからジゴンダス
セギュレとサブレ
住人が育てるいいレストラン ―カヴァイヨンー
コロニア・アレラーテ再訪 ―交易都市再発見―
古代ローマの川船
ガリア・ローマの食品コンビナート
フランス最大の塩田地帯 ―カマルグ湿原―
カマルグの白い馬
マルセイユ ―ガリア・ローマの熱気―
旅の終わりに
Ⅰ. ガリア・ローマへ(2007)
Ⅱ. 拡大するガリア・ローマ(2010)
あとがき

 コロニア・アレラーテ再訪 ―交易都市再発見―


 セギュレから1時間半ほど南西に走って、旅の最終目的地は再びアルルである。2007年の旅で見落としたものや新しい発見が集中しているからだ。ほかにやりたいこともあったので今回は3泊することにしていた。
 アルル旧市街の北の玄関カヴァルリ門Port de la Cavalerie を入ったところにあるアカシアというホテルを予約しておいた。アルルはほとんど歩いて回れるしすぐ近くのアルル駅前に広い無料駐車場があるので便利だ。ホテルで荷物を解いてさっそく出かけた。
 カヴァルリ門の両脇には切り石を積んだ城壁が部分的に残っている。アルル旧市街を囲んでいた中世の城壁で、ここ以外にも何か所か塔や城壁が残っているところがあり、中には基礎部分にローマ時代の石積みを見ることができる場所もある。
 まず訪ねたのは前回修復工事中で見学できなかったフォーロム地下回廊Cryptoporitiques du Forum だ。レピュブリック広場Place de la République からフォーロム広場Place du Forum を中心とした範囲はかつて議場や神殿が建ち並ぶ植民都市の政治経済の中心フォーロムがあった場所だ。神殿の一部は今もフォーロム広場に面したホテルの壁に残されている。ローヌ川の河岸段丘に築かれたこの町のもとの地形は起伏や傾斜が随所にあり、フォーロム全体を包摂する広い平坦面を作って巨大な石造建築を建てるため低い部分にアーチ構造の石造の基礎を築いたのだ。それが現在も広い地下空間として残っており、「地下回廊」と呼ばれている。 
レピュブリック広場に面した市役所の中に地下回廊への入り口はある。この日は結婚式があったようで、市役所の前で新郎新婦や着飾った人たちが記念撮影していた。地下回廊の中は小さな明り取りの窓が少しあるだけでかなり暗いから懐中電灯は必需品だ。現在見学できる範囲は限られているが、頑丈そうなアーチが延々と続いている。

カヴァルリ門 アルル旧市街の城壁

 ローヌ川に近い西寄りの部分は十分立って歩ける高さがあり、アーチに囲まれた部分が小部屋になっているところもある。地下の基礎部分だから当然装飾的なものはなにもない。あちこちに彫刻のある柱頭や石柱の破片など建築部材が転がっているがローマ時代に置かれたものではないだろう。
 コロニア・アレラーテはローヌ川河口近くに開かれたガリア属州初期の植民都市だから、ガリアをはじめヒスパニアや北アフリカなど各地の属州から運び込まれる物資や、逆に送り出される交易品、ローマ本国に送られるものなど大量の物資が出入りする一大ターミナルだった。港の近くには大規模な倉庫群があったのだが、地下回路は貴重品を保管するための倉庫として使われていたらしい。
 フォーロム地下回廊を見学した後、夕方まで時間があったのでエスパス・ヴァン・ゴッグL’espace Van Gogh も訪ねた。ここはファン・ゴッホが入院していたことで知られる精神病院の跡で、一時荒れ果てていたものを当時の姿に整備しなおしたものだ。現在は市のカルチャーセンターとして使われていて、ギャラリーや各種の教室が入っている。
四周を建物に囲まれた中庭が植えられた木や花まで当時の姿に復元されている。ゴッホはここの2階の角の病室に入院していて、部屋の前の廊下に出て絵を描くことは許可されていたため、斜め上から見た中庭の絵を知っている人も多いだろう。ここでしばらく休憩してからそのまま夕食を食べに行った。

中世の城壁の塔 フォーロム地下回廊内部の柱や彫刻
フォーロム地下回廊のアーチ
新郎新婦 エスパス・ヴァン・ゴッグの中庭
                 
 2007年の旅で「漁師鍋」を食べたラ・ペヨットというレストランの隣にプロヴァンス風肉料理が評判のオ・ブラン・ドゥ・タイムAu Brin de Thymという店がある。9年前から目をつけていた店だ。予約はしていなかったが、早い時間だったのでテーブルに着くことができた。そのあとあっという間に満席になったから幸運だったとしか言いようがない。ここの料理も期待通りうまかったので詳しく書いておく。
前菜は中ぶりのエスカルゴを小鍋に詰めてトマトとニンニクたっぷりのバターで蒸しあげたエスカルゴのプロヴァンス風、相方はきゅうりのガスパチョをとった。このきゅうりのガスパチョがなんともなめらかでコクがあってうまい。ニンニクや玉ネギも入っているようだが、なにかハーブを使っている。酸味はわずかに感じる程度でたぶんヴィネガーではなくレモン果汁だろう。ミルクと生クリームでコクを出しているようだ。粗く刻んだきゅうりとミントの葉をトッピングしてある。これは帰国してから何度も再現にチャレンジしているがなかなかうまくいかない。エスカルゴのソースがまたうまくて、鍋をさげに来たおねえさんに「あああ待って、パンにからめて食べるから」って慌てて押さえたらうれしそうに笑ってた。メインはジゴ・ダニョーと闘牛のガルディアン風。子羊のももを輪切りにしたジゴ・ダニョーはちゃんと真ん中に骨も入っていて、しっとり焼き上げた肉も骨髄も文句なしのうまさだ。闘牛というのはアルルの円形闘技場で開催される闘牛に使うカマルグ牛の牡牛ことで、あばら骨のついたロースを超レアに焼き上げてある。
表面だけカリッと焼けていて切り口は真っ赤だが生ではない。フランス語でレアはセニャンsaignant だが超レアはブルーbleu と言い、見た目は本当に生のようだが芯までちゃんと熱が入っているというむつかしい焼き方だ。この店のは完璧なbleu である。脂気のない赤身は一見硬そうなのだが、上手に熟成してあるので香りもよくとても柔らかい。カマルグ牛の肉も牛肉では数少ないAOPを取得している。ガルディアンというのはカマルグ湿原で牛や馬の放牧をしているカウボーイのことで、このステーキは彼らの食事がモデルになっている。
 どっしりしたコート・デュ・ローヌのハウスワインとのマリアージュも申し分なく大満足だった。

エスカルゴ

きゅうりのガスパチョ  

ジゴ・ダニョー 闘牛のガルディアン風ステーキ