Ecole de français du Kansai -Traduction, Interprétariat, Guide-
Ⅲ. 三たびガリア・ローマへ(2016)
フランスの絶景 ―サント・ヴィクトワール山―
ローヌワイン街道と美しい村々
オークルの村 ―ルシヨン―
特別な白ワイン ―ボーム・ド・ヴニーズ―
ヴァケラスからジゴンダス
セギュレとサブレ
住人が育てるいいレストラン ―カヴァイヨンー
コロニア・アレラーテ再訪 ―交易都市再発見―
古代ローマの川船
ガリア・ローマの食品コンビナート
フランス最大の塩田地帯 ―カマルグ湿原―
カマルグの白い馬
マルセイユ ―ガリア・ローマの熱気―
旅の終わりに
Ⅰ. ガリア・ローマへ(2007)
Ⅱ. 拡大するガリア・ローマ(2010)
あとがき

 ヴァケラスからジゴンダス

 ボーム・ドゥ・ヴニーズからさらに北上すると、約3㎞ごとにヴァケラスVacqueyras とジゴンダスGigondas という二つの産地がある。どちらもシャトー・ヌフ・デュ・パプと肩を並べる名醸地だ。
 ヴァケラスはもともと小さな村だったが、その周りに町が広がっている。さしたる特徴はなく美しい村というわけでもない。1990年取得と比較的最近のAOCだが、深い赤紫色とスパイシーでありながらエレガントな赤として人気が高い。ブドウの栽培面積が狭く生産量が少ないことから日本への輸入量は極端に少ない。
 実は、買ってきたエトゥルニテÉternité 2012年というワインは飲み頃になるまで10年は寝かさなくてはならないので、まだ味の評価はできないでいる。
 ヴァケラスから指呼の距離にあるジゴンダスはとても美しい村だ、切り立った岩山の頂上に崩れかけたシャトーの廃墟があり、そこからは岩山の急斜面に密集する赤い瓦屋根の小さな家々とその向こうの緩斜面に広がるブドウ畑が見渡せる。シャトーの廃墟まで登るつづら折れの道はハーブ畑になっていてそれぞれの名前を書いた小さな立札が立っている。ちょっとちぎっては香りを確かめたり味を見たりしてみたが、すごい種類があるもんだ。日本では見たことも聞いたこともないようなハーブもあった。
 村の中は狭い石畳の道が入り組んでいて、そこここに小さな土産物屋やカフェが点在している。小さな公園のマロニエの木にニットのセーターを着せてあるのが目についた。最近フランスのあちこちで流行っているらしい。車の通れる村のメインストリート沿いには生産者直営のワインショップやレストランが軒を連ねている。ちょうど昼時だったので、大きなマロニエの木の下のテラス席が気持ちよさそうな一軒に入った。メニューを見るとなかなかの高級店だ。プロヴァンス語でホテルを意味するルスタレL’Oustaletというこの店宿泊もできるオーベルジュらしい。料理がすごくうまかったので食べたものを詳しく書いてしまおう。
昼のコースのアミューズは白身魚のカルパッチョ。茹でたアサツキとアンズの甘酢漬けを添え、ハーブを混ぜたオリーブオイルがかかっている。へ?っと思うほど小さいが味は抜群だ。前菜は殻は小さいがよく肥えた身の生ガキにブラックペッパーを振り、素揚げしたハーブを練りこんだマヨネーズが添えてある。これがなかなかのもので、生ガキにはレモンという常道を外したいい驚きだ。スープはズッキーニの花のフリットを泡立てたスープに浮かべてあるが、このスープがとんでもなくうまい。たぶん蟹だと思うがミソも加えた出汁がベースになっているのだろうという以上は分析できなかった。メインはカモのロティとタラのスープ仕立てトリュフ添えをチョイスした。カモにはフェンネルの香りのソースがかけてあってこれがまたいい。付け合わせはシコレのスープ煮だった。タラはよく使われる塩ダラではなくフレッシュなもので、スライスしたトリュフとすみれ色のエディブルフラワーを散らしてある。付け合わせはアルティショーとインゲン、枝豆を炒めたもの。どの料理も盛り付けが斬新で、それがちゃんと似合ういい味だった。デザートはセロリの甘酢漬けとカリソンというアーモンドペーストで作ったエクス名物のお菓子に串に刺したチョコレートで締めくくった。それぞれの皿がもう少し食べたいなぐらいの量で、いつものフランスでの食事だとデザートまでたどり着けないことが多い我々にはちょうど良かった。
これまでどこか物足りなさを感じていたヌーベル・キュイジーヌのまっとうなものを味わったのは初めてかもしれない。自他ともに認める食いしん坊で食べ物にはしょっちゅう感動しているのだが、この店での感動はちょっと別物だった。
ジゴンダスのワインはこのレストランの近くのテルムというドメーヌDomaine du Terme の直営店で何本か試飲してタンニンの強いものを選んだ。最近のアネー・エクセプシオネール2010年もので、香りは抜群だが6年ではまだタンニンが尖っていて飲み頃になっていない。店のマダムがここまでタンニンが豊富なワインは10年ほど寝かすとほどよくこなれておいしくなると教えてくれたからだ。誇りを持っている生産者は嘘を言わないからこれは信用していい。このワイン2020年には甘苦いどっしりした味を楽しめるだろう。
この店で我々と同じような年ごろのドイツ人の先客と出会った。夫婦して車でワインを買いに来たのだという。ちょっとびっくりしたのだが、8ケースも買い込んでいた。6本入りだから48本だ。車に積み込むところを見たら、よそでも買い込んだワインもいっぱい詰まってる。トランクに入りきらない分は後部座席も占領していて、大型のメルセデスの後輪が沈み込んでいたのには笑ってしまった。奥さんは「友達に頼まれた分もあるのよ」と言い訳していたがまさにEUさまさまで、無税では二人で6本しか持ち帰れない我々とは大違いのうらやましさだ。
 

シャトーの廃墟に続く小径

廃墟から望む村とブドウ畑  

斜面にはびっしりと家が建てこんでいる

レストランルスタレ アミューズは白身魚のカルパッチョ
生ガキにハーブマヨネーズ ズッキーニの花のフリットのスープ
タラのスープ仕立てトリュフ添え タラのガルニチュール 
カモのロティフェンネル風味  デザート
     生産者の直営店