Ecole de français du Kansai -Traduction, Interprétariat, Guide-
はじめに
トゥルーズToulouse

カルカッソンヌCarcassonne

ロカマドゥールRocamadourと
ロスピタレL’Hospitalet
スーイヤックSouillac
クロマニョン人の故地
あとがき―パリにて―
附:この旅で訪れた世界遺産
はじめに

オックの国へ
 ガリア、世界史の本でしか見たことのない国名だ。先年、近代オリンピック発祥の地で、ほぼ一世紀の時を経て開催されたアテネオリンピック。その開会式で、参加国名をギリシャ語で読み上げていた。おなじみの三色旗が登場したとき「ガリア」というアナウンスが聞こえて、思わず「ほおー」とうなった。ヨーロッパ文明発祥の地から見れば、フランスは相も変わらず「ゴール人の国」なのかと妙な感心をしてしまった。
 現代のフランスは、もちろんギリシャよりも強大であり、EUの盟主たらんとする近代国家である。
 フランスの地方行政単位は県なのだが、いくつかの県のまとまりとしての地方名の方がよく知られているだろう。ワインの名醸地として知られるブルゴーニュやアルザス、パリ特別市を擁するイルドフランス、南仏プロヴァンスなどは誰でも知っているが、ニースがプロヴァンスにあることは知っていても、アルプマリティム県の県庁所在地だなどということは大多数が知らない。
 ややこしいのは、地方名とは別に、隣接する地方の一部だけを括った地域の呼び名も存在することで、アキテーヌとミディピレネーにまたがるガスコーニュやローヌアルプとプロヴァンス・アルプ・コートダジュールの北部一帯をひとくくりにしたドーフィネなどという地域がある。甚だしいのは、アキテーヌ地方ピレネーザトランティック県で、国境を越えたスペイン側とともにバスクを主張している。地方や地域はそれぞれに歴史的背景があり、いろんな場面で強烈な地域ナショナリズムが発揮されるわけだが、ここではひとまずさておくことにする。
 ラングドック・ルションもそうした地方名のひとつで、エロー、オード、ガール、ピレネーゾリアンタル、ロゼールの5県で構成される。南はスペインのカタルーニヤと国境を接し、東に地中海のリオン湾を望む地域で、周囲をミディピレネー、オーベルニュ、ローヌアルプ、プロヴァンス・アルプ・コートダジュールの各地方に囲まれている。
 Languedocと表記されている地方名の字義は「langue d’Oc(オックの舌)」だが、フランス語のラングは「言語」でもあり、「オック語」という意味になる。オック語はフランス語の一方言で、ローマ化したケルト人の話すラテン語が基礎となって11~12世紀に古オック語として成立した言語である。14世紀以降フランス語の公用語化が進んだにもかかわらず、フランス南部では最近まで、16世紀以降に確立した近代オック語が広く用いられていた。広辞苑によれば、第2次大戦後南フランスの復権運動によって公式に南仏語として認知された。その文化圏をオクシタニーOccitanieと呼ぶ。オック語は今も地名や品物の名に多く残っているばかりか、オック語の新聞や音楽CDまであって、オック語を理解できる人口は相当な数にのぼるともいう。そしてなによりも、地域の名としてここがオック人の土地であることを主張しているのである。
 ラングドック・ルションを含むフランス南西部の景観は、幾筋もの川が石灰岩台地を刻んだ起伏に富んだ地形と、中世そのままに残る町や、岩山の上に営まれた「鷲の巣村」、サン・ティアゴ・デ・コンポステーラに向かう巡礼路の聖地に建つロマネスク様式の教会など、フランスの原風景をほうふつさせる。また、料理やワインに見られる豊かな郷土色、人なつこい南仏人気質など、独特の歴史的背景と文化的風土を持っている。そこで、かなり強引なことは承知の上で、ミディピレネー、オーベルニュ、アキテーヌの一部も含めた広い範囲を勝手に「オックの国」と呼ぶことにして旅を進めよう。