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クロマニョン人の故地
ヴェゼール渓谷
スイヤックから北上してドルドーニュ川を渡るとサルラSarlatに至る。このあたりまで来ると道沿いの農家にフォアグラの看板がやたら目に付くようになる。サルラからレゼジーはもう目と鼻の先である。ドルドーニュ川に沿う道を進むとあちこちに切り立った石灰岩の絶壁が現れる。ヴェゼール川Vézèreの渓谷に入るとその崖の高いところに数十万年前の河床の位置を示す岩棚が何段も形成されているところがあり、その多くがネアンデルタール人やクロマニョン人たちが暮らしたアブリと呼ばれる岩陰遺跡である。クロマニョン人は、レゼジー村のアブリ・ド・クロマニョンAbri
de Cro-Magnonで発見された人骨化石を標準資料として名づけられたことはよく知られている。小学生のころから一度は訪れたいと願っていたその場所にいよいよ足を踏み入れると思うと、興奮して鼓動が早くなるのがわかる。
道は深く刻まれた渓谷の底近くを走っており、ヴェゼール川をそのまま遡るとラスコー洞穴Grotte de Lascauxのあるモンティニャック村Montignacに至る。一昨年はかなり無理な行程だったため、ぎりぎりでラスコーⅡは見ることができたのだが、レゼジー村は通過することすらできなかった。そのときはほんとにラッキーで、大西洋岸の港町ラ・ロシェルから走りに走ってようやく夕刻モンティニャックにたどり着き、インフォメーションに駆け込んだらその日の最終入洞者受付があと3人というところだった。ラスコーⅡは本物の洞穴のそばに作られた精巧なレプリカで、技法や顔料なども忠実に再現されており、コンクリートの構造物とは思えないくらいよくできているが、復元されているのは主要部分だけで全貌が見られるわけではない。
壁画洞穴としてはスペインのアルタミラと並んでラスコーが世界的に最も有名だが、クロマニョン人の生活の中心がレゼジー村だったことは間違いない。ここには、フォン・ド・ゴームやコンバレルなどの壁画洞穴とともに、ラ・マドレーヌやル・ムスティエといった研究史に残る遺跡が集中している。しかも、アルタミラやラスコーが早くに公開を停止して複製を見せているのに、レゼジーではすべて本物を公開しているのである。
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