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オックの国へ
2005年4月2日、パリ、シャルルドゴール空港に向けてAF291便の客となった。10日間の旅の目的はフランス南西部に残された世界遺産を核としてその周辺を巡ることである。フランス人が「旧石器時代の世界の中心」と誇るヴェゼール渓谷のクロマニョン人の遺跡群、サン・ティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路に残されたロマネスクの教会や中世の町並、そして、郷土料理や強いチーズに土地のワインをしこたま味わって、そうだ、土産はマルシェで買おう。
フランス南西部最大の都市の名をトゥルーズという。パリから飛行機で1時間あまりのこの町が「オックの国」の玄関口である。
トゥルーズはミディピレネー地方の中心でフランスで6番目の大都市である。かつては、パステルと呼ぶ藍染め染料と煉瓦を主要産業として栄えた。現在のトゥルーズは、引退してしまったコンコルドやエアバスに代表される先端航空機産業と、多くの研究者や学生が集う大学の町として知られている。
ガロンヌ川右岸に形成された旧市街はいくつかの大通りを除くと狭い道が縦横に走っており、そこからまた狭い路地が入り組んでいる。いくつかの広場を中心に放射状に展開する道は、微妙にカーブしていたりして見通しがきかず、一本間違うと目的地からどんどん離れていってしまうので、方格地割りに慣れた者にはいささか心細い。
旧市街には古い建物がそこかしこに残されている。通りに面した建物の外観はけっこう無機質であったり、背の高いドアが威圧的であったりするのだが、よく見るとドアノブやノッカー、窓の格子などに凝った細工を見つけることができるのも、町歩きの楽しみだ。
煉瓦づくりの建物が多いためか町全体が赤く色づいているのが印象的で、トゥルーズが薔薇色の町La Ville Roseと呼ばれるゆえんである。灰色の石造建築を主体としたモノトーンのパリの町などとは際立った違いを見せていて、どこか暖かみさえ感じさせる。まずはこの町の古建築を訪ね歩こう。
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