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サン・セルナン・バジリカBasilique St-Sernin
サン・セルナン・バジリカの入り口は2か所にある。朝、まだ扉が開いていない時間に写真を撮っていたら、わざわざ門を開けてくれたじいさんがいたのだが、教会の関係者にしては随分薄汚れた服装だ。人々がミサに訪れ始めると、そのじいさんは扉の外に立っていて、皆なにがしかのチップを渡している。多分寺男のようなことをしながら生計をたてているのだろうと思ったが、扉を開け閉めしてくれるわけでもないので、人々は教会に来て善行を施しているという感覚なのだろう。もう一つの扉の外には明らかに乞食と思える女が石段に座り込んで物乞いをしていた。
バジリカの外観は、修復が繰り返されていると思われる割に建築当初の形をよく残している。特に石造の門は傷んでいるが12世紀の遺構だと思われる。外壁に造りつけられた壁龕に石棺が安置されていたりするのは、日本の墓の感覚とはほど遠いものがある。フランス最大のロマネスク建築といわれる塔は上層と下層で窓の形が違う。建築に11世紀から200年あまりを費やしたため、上層にはゴシックの影響が見て取れるのである。頂部の尖塔は最後に付け加えられたものだろう。本来の姿は、このあと訪ねるジャコバン修道院の塔のように八角形のまっすぐな塔だった。
聖堂の中は薄暗いが、目が慣れてくると、天井や壁に描かれたフレスコ画とゴブラン織りの壁掛け、古相を示すステンドグラスなどが荘重な雰囲気を醸し出している。古い様式を残すパイプオルガンも素晴らしい。
中央に3世紀の殉教者サン・セルナンの墓碑を祀った正面祭壇の天蓋や後陣の装飾、地下礼拝堂に収められた聖遺物の櫃の凝った装飾などは、ヨーロッパの人々が教会に莫大な富をつぎ込んできたことを示している。祭壇裏手の後陣に面した壁に彫られたキリスト説教図のレリーフは11世紀末の作品である。トゥルーズはサン・ティアゴ・デ・コンポステラの巡礼道のうち、アルルを起点とするサン・ジルSt-Gille
の道の中継点で、サン・セルナン・バジリカには8世紀の聖人サン・ジルの聖遺物も納められている。 |