Ecole de français du Kansai -Traduction, Interprétariat, Guide-
ロクロナン Locronan 異貌の教会建築群
はじめに
やっぱりフランス旅は
いきなり面白い
ブルトン
またはケルトの国
メガリス Megalithes
ブルターニュ公国の古都
小さな海 
―mor bihan―
メガリス研究発祥の地
地の果て Finistere
ブルトンの村・建築
ブルターニュの最深部
―フィニステール北岸―
谷の町モルレー Morlaix
パリに戻ってさらに考えてみた
ブルトンの村・建築

 
異貌の教会建築群

 ブルターニュの村々を車で通過すると、どんな小さな村にもいたるところでケルト様式の十字架やカルヴェールが見られるし、教会も他の地域のものよりごてごてとした石彫で飾られているのに気付く。ミシュランの地図を見ても十字架のマークがやたらと多いことに気付くだろう。これらは教会や礼拝堂の場合もあるし、道標のような十字架もある。中でも目を引くのはアンクロ・パロワシオーEnclos-Paroissiaux と呼ばれる教会建築で、「聖堂囲い地」と訳されている。教会、墓地、納骨堂などを一面の石彫で飾った塀や十字架で囲ったもので、ブルトンの国に特有の様式だ。代表的なものがブレストの東に集中して残っている。今回の旅ではサン・テゴネックとギミリオーの2か所を訪れた。
ブレストからフリーウエイN12‐E50を東に40㎞ほど行くと、モン・ダレー山塊Monts Darreeの北麓にランディヴィソー(Landivisiau) という比較的大きな町があり、その近辺にアンクロ・パロワシオーで有名な三つの村、サン・テゴネック(St-Thégonnec)、ランポール・ギミリオー(Lampaul Guimiliau) 、ギミリオー(Guimiliau) がある。サン・テゴネックの村に入り起伏のある石畳の道を村の中心に向かうと、教会の前が小さな広場になっている。そこで車を降りてまずその全貌を眺めたのだが、つれあいと二人同時に「うわー」と声をあげてしまった。この「うわー」には「すげー」と「気色悪うー」と二つながらの感嘆がこもっている。こんなもの見たことないぞー。
普通常に門戸を開いているはずの教会が彫刻だらけの石の垣根で囲まれているのも初めてだが、教会の壁といわず塔の側面といわず、とんがり屋根の稜線にいたるまでものすごい密度の彫刻で埋めつくされていてグロテスクでさえある。聖堂の前には典型的なカルヴェールあるのだが、土台は聖人たちや悪魔のようなレリーフで全面が飾られており、上部にはキリストが捕らえられ、十字架にかけられて復活するまでの物語がぐるりと彫られている。キリスト受難像(図)を意味するcalvaire の語源は、le Calvaire (カルヴァリオの丘)ですなわちゴルゴダの丘のことである。キリストの受難とそこに登場する人物を描いたカルヴェールはブルターニュ以外の地域でも無くはないのだが、ここブルターニュで見るものが一番ごてごてしている。これら15世紀の彫刻は立体的なのだがどこか稚拙な感じで、善人はなんだか間の抜けた顔つきだし、キリストを引っ立てる刑吏などはこれ以上の悪人面はあるまいと思うような漫画に近い表現だ。飽きずに見ていたらいきなり何の脈絡もなく「悪代官と越後屋」というフレーズが頭に浮かんで吹き出してしまった。
 入り口の両側に並ぶ十二使徒像も稚拙な表現だ。中に入ると身廊の仕切りも祭壇もこれまた彫刻だらけでしかも金ぴか極彩色だ。なんだかフランスらしくないというか、カトリックの教会とは思えないようなものすごさである。