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地の果て Finistère
ブルターニュの深部へ
エルドゥヴァンからN165-E60というフリーウエイを西に行くと100㎞ちょいで陶器の町カンペールQuinper に着く。ここがフィニステール県の県都で、見るべきものもたくさんあるのだが今回は通過したのみである。フィニステール県はフランスの最西端で、その名のとおりフランスにおける「地の果て」だ。また、ここにはマルセイユをしのぐフランス最大の軍港ブレストBrest があることでも知られている。3つの半島が西に向かって突き出ていて、その間は深い入り江になっている。北を向けばラ・マンシュ海峡(イギリス海峡)をはさんでイギリスのコーンウォル半島だ。ここはブルターニュの最奥と言ってよく、ブルトン人たちがブルトンであることを最も強く主張している土地である。どこへ行ってもやたらとブルトン語の看板を見かけるので、ブルトン語の話者が最も多い地域なのだとも考えられる。出会う土地の人たちは老人でもたいてい大柄で、顔には深いしわが刻まれ女性でも結構濃いひげが生えているなど、いかにもケルトの末裔らしい一癖もふた癖もありそうな顔立ちをしている。
パリからブルターニュへ列車で向かうと、ヴァンヌまでの4時間あまり、延々と広大な農地が広がっていてフランスが食料自給率200%を誇る農業国であることを実感させられるのだが、ここフィニステールでは農地と荒地と山林の比率が同じくらいに見えてしまう。実際にはほんとの荒地は少なく、そう見えるのは放牧地なのかもしれないが、羊や牛をそれほどたくさん見かけることもなく、草とまばらな潅木が茂る中に巨大な花崗岩の岩塊が露出している風景からはなんだか広漠とした印象を受けた。第一、海岸に近い土地など岩盤の上にほんのわずかな厚みの表土しか乗っていないところが多く、客土して農地に変えるなどということは並大抵の労力じゃできない。少なくともイル・ド・フランスのように大規模経営の農業はないのだろう。
カンペールやブレストは大都市なのだろうが、周辺の町はとても小さい。車で走っていて通過する村々も本当に小さくてあっという間に通り過ぎてしまうのだが、大小の違いはあれ、どの村にもカルヴェールを伴う教会がある。通りで人を見かけることも稀なのでメガリスの場所を尋ねたいときなど困ったものだ。それほどに人口も少ないのだろう。それだけに人跡稀な長い海岸線を擁していることから国境警備の厳重な地域でもある。だいたいフィニステールからノルマンディーにかけての海岸線は、第2次大戦中ドイツ占領下でたくさんのドイツ軍前線基地が築かれたところだ。岬や海岸のそこここでドイツ軍のトーチカや砲台の残骸を見かけた。昨今国際テロへの警戒も強めているためか、いたるところで4・5人ぐらいの武装した分隊がパトロールしているのに出会った。中に一人は必ず女性兵士が混じっている。道中カマレ・シュル・メールCamaret
sur-Mer という町のクレープリーで昼食をとったときもそんな兵士の一団が食事中だった。皆の足元には軽機関銃が置かれていて、一人はもっとでかい機関銃を壁に立てかけている。ここでさすがお国柄と感心したのは、みんなワインやビールを飲みながらガレットを食べ、その後甘いクレープも食べていたことだ。日本なら制服警官がパトロール中に一杯やりながら昼定食を食ったあと、喫茶店でケーキセットまでいきよった、みたいなありえない話だが、フランス人の食卓にワインとデザートは欠かせないということがここまで徹底しているとは知らなかった。「勤務中ですから」なんて台詞はフランス映画には無いんだろうね。
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