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カルナック Carnac
カルナックはモルビアン湾の西、キブロン湾に面した町だ。ここは海に向かう何条もの列石が数kmにわたって続いていることで知られている。メネックle Menec、ケルマリオKermario、ケルレスカンKerlescanの3か所に大きな列石があり、その中の随所に大きなメンヒルやドルメンが見られる景観は壮観というほかない。そんな列石の間で放牧されている羊がのんびり草を食んでいる。つれあいが「可愛いね」というので「プレ・サレちゅうてな、あれが美味いんやでえ」とは言い出せなかった。ブルターニュのメガリスでは最も有名な場所なので観光客も多く、われわれが訪ねたときにはドイツの高校生の団体が見学に来ていた。
これらの列石は数千年間にわたって立て続けられたのだという。太陽の方向と関連付けたりする説がもっともらしく語られているが、列によって方向が違っていたりするのでその意味はいまだに解明されていない。
列石以外でもマニオの巨人Geant du Manioと名づけられた大メンヒルは特に有名だ。また、サン・ミッシェル古墳Tumulus St-MichelやムストワTumulus
du Moustoir といった巨大な墳丘墓もある。ケルカド古墳Tumulus de Kercado もきわめて保存状態がよくて印象に残った遺跡である。ホテル兼レストランの裏山にあって有料で公開しているのだが、入り口には誰もいなくて、一人2.5ユーロと書いたさびた缶が置いてあるだけだ。古墳は巨石で構築した羨道付ドルメンを割石と封土で覆ったもので、入り口の形状はターブル・デ・マルシャンにそっくりだ。円形の墳丘の直径は25mほどもある。羨道と玄室の境目あたりの真上にあたる墳丘上と入り口正面の15mほど離れた場所にメンヒルが立っており、墳丘裾の5mぐらい外側を列石で囲んでいる。きれいに整備された遺跡と違い、森の中にひっそりとたたずむ姿はメガリスの原風景を思わせる。
カルナックはまた、ブルターニュの巨石文化について始めて科学的な目で研究が始められた場所でもある。19世紀にイギリス人の考古学者ジェームズ・ミルンJames.Milnと彼の助手でミルンの死後その研究を引き継いだブルトン人ザシャリー・ル・ルジックZacharie.Le
Rouzicが、ここを拠点に精力的に発掘調査を行い、倒れていた列石や崩れかけたドルメンなどの修復も手がけた。今見ても彼らが復元した列石は基礎のコンクリートを赤く塗って本来立っていたものと区別できるようになっていて、当時としては良心的だといえる。ただ、ロクマリアケでも見たが、ケルンの復元などは厳密には元の姿は判っていないといわれ、批判もある。しかし、そういったことが彼らの業績を無にするものではないことは確かだ。
ルジックはミルンから引き継いだ膨大なコレクションをさらに充実させ、それらのすべてを散逸させることなく町に寄贈した。町はそのコレクションをベースに先史学博物館を建て、現在も公開している。町の中央にある博物館は、建物は古く規模も小さいが、展示は充実している。さらに、予約すれば収蔵庫の中の遺物はもちろん、ルジックらが作成した図面や写真、報告書類も見学できるというし、年間を通して子供や一般人向けの各種講座なども開講している。まさにブルターニュのメガリスを勉強する上での基準資料センターの役割を果たしているのである。この博物館の正式な名称はMusée
de la Préhistoire J.Miln-Z.Le.Rouzicという。
カルナックでも昼食にはガレットを食べた。町の中心の教会広場にあるLa Pompeというクレープリーだった。インテリアに可愛い靴が飾ってあったり照明がいいセンスだったりとなかなかおしゃれな店だ。ベーコンと卵のつもりでバコン・ウッフbacon
oeufsを頼んだら何の変哲もないロースハムを使ったハム・エッグが乗ってて、間違えたんじゃないかと思い「これがバコン・ウッフか?」と聞いたら「そうよ、うちのは美味しいわよ」という答えが返ってきた。辞書でもベーコンはbaconなのだが、ここではlardの方を使うらしいということに帰国してから気付いたのは間抜けだった。でも味は確かに旨かったよ。シードルもロクマリアケで飲んだものとはまた違った風味で、少し辛口だった。
隣のテーブルのおばさんが食べていたデザートが旨そうだったので、「あれと同じものを」と頼んだら、フロマージュ・ブラン・フレに黒スグリのジャムをかけただけのものだったが、よく冷えていてさっぱりして美味しかった。
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