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エルドゥヴァン Erdeven ―隠れた名シェフに出会う―
カルナックからD781という地方道を西へ向かうとエルドゥヴァンの町の手前で道を挟んで巨石が立ち並んでいる風景に度肝を抜かれる。これがケルゼロの列石Allignement de Kerzerhoだ。カルナックの南のトリニテ・シュル・メールTrinite
sur-Merからエルドゥヴァンにかけての一帯はブルターニュでもメガリスが最も集中して分布する場所で、見るべきものはいっぱいある。エルドゥヴァン周辺では、飛鳥の石舞台のような形をしたクリュクノのドルメンDolmen
de CrucunoやロンドセのドルメンDolmen de Rondossecも有名だ。
ケルゼロの列石を訪ねたのはちょうど秋分の日没ごろで、影の方向から東西に並んでいるものが多いことがわかった。太陽の方向を意識しているものがあることは確かなのかも知れん。
町の中に入ると住宅の塀や街灯などそこかしこにたくさんのフラワーポットがかかっていて花があふれている。静かで美しい町だ。住宅地の広くない道は左右の歩道を互い違いにせり出させてあったり、路面にわざと凹凸がつけてあってスピードを出せないようにしてあるのもいい工夫だ。
今回の旅はカルナック周辺をじっくり見て回ろうということで、この近辺に2泊することにしていた。「古墳ホテル」が休業中だったのでフランスのヤフーをうろつきまわった挙句にここエルドゥヴァンのスー・ボワAuberge
du Sous Boisというオーベルジュに宿を定めた。町外れの松林の中にある一風変わった田舎風の建物がその宿だ。フロントの愛想のいいおやじに案内された部屋は裏の松林に面している。宿自体は道路に面しているのだが静かで落ち着ける部屋だ。フロントの奥の別棟がレストランになっているのだが、これが結構広いのに間柱がない。天井は梁や垂木がむき出しになっていて建築的にも面白い建物だ。中に入るとフロントにいたおやじがシェフに変身している。
ここも前菜と主菜を選べるようになっていて、つれあいは香草をまぶしたエクルヴィスの串焼きとモンツキダラの縮緬キャベツ包み焼にホワイトソースと浅葱のソースをかけ分けたもの、こちとらは生牡蠣と香草をまぶした仔羊の串焼きを選んだ。アペリティフのブルトンウィスキーを舐めながら見ていると、焼き物は正面のでかい暖炉のところで変身したおやじが炭火で焼いている。保守的なブルターニュではオープンキッチンの店というのはあまり見かけないので、この宿の新機軸といったところなのだろう。ここの料理は本当に旨かった。見た目焼き方はちょっと雑かなと思ったのだが、タラも羊も風味がすばらしい。素材の味のベースがしっかりしているんだな。辛口のシードルともよく合って大満足だった。デザートはチーズと熱々のガトー・ショコラだったが、このケーキが外はサックリ、中はトロッとしていて驚愕の旨さだった。ここのおやじただ者じゃない。
ちなみにブルトンウィスキーは雑穀を原料にしたグレーンウィスキーで、スコッチのような強いスモーキーさはなく、アイリッシュウィスキーに近い柔らかな味だった。
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