|
美食の都リヨン 2
リヨンはガリア属州の北の最前線ガリア・ルグドゥネンシスに築かれた植民都市で、ローマ時代の街の名はコロニア・ルグドゥムだ。大聖堂から少し坂道を下ったところにガロ・ロマン文化博物館Musée de la civilisation Gallo-Romaine がある。うれしいことにこの週は文化週間ということでフランス中のすべての公立博物館、美術館と趣旨に賛同する私立美術館や、史跡が入館無料になっていた。
ソーヌ川に向かって下る斜面に建っているため道に面した入り口はいたって地味な平屋の小さな建物に見える。フルヴィェールの丘の景観を損ねない設計が好もしく思えた。エントランスを入るとすぐにずんぐりした形のアンフォラがずらっと並んでいるが全然派手さはない。「ん?なんか期待外れか?」と思いながら進むと、螺旋回廊を下りながら展示を見るようになっている。すると、あるわあるわ。皇帝の彫像頭部や写実的な彫刻を施した大理石の石棺などが目白押しに並んでいる。状態のいいモザイク画がこれでもかというほどあるのも圧巻だ。ミロのヴィーナスに劣らないヴィーナス像もある。感激したのはローマの男神像とガリアの地母神が並んだ男女神像や聖母子像の原形ともいわれる双子を抱いた女神像がいくつも展示されていたことと、秤の分銅や機械式の弩の部品などそれまであまり見ることのなかった遺物をいくつも観察できたことだ。
おもしろかったのはローマの葬送儀礼の特別展だった。特展室の中にローマ時代の富裕層の墓からごく簡素な庶民の土葬墓まで網羅的に再現してある。子供やペットの墓もある。2世紀ごろには火葬が普及しており、日本の中世のかまど塚のように墓壙の上に薪を積み上げた上で葬送用の輿を焼き、そのまま葬ったものや、焼骨を骨壷に収めたもの、骨壷にも陶器や鉛、ガラスなどいろいろなタイプがあることなどを知った。ビデオテークでは音楽隊や泣き女も登場する葬列の様子やデスマスクの作り方などが解説されていてこれも興味を引いた。
建物全体は5層構造になっている。2階まで下りると大きな窓から外の視界が開け、古代劇場が目の前に広がる演出は見事だ。人々はそれを見てワクワクしながら1階まで下りて遺跡へと出かけていく。
外へ出ると目の前に劇場(テアトル)とその半分ほどの規模の音楽堂(オデオン)が並んでいる。舞台背面の壁は残っていないが丘の斜面を利用した観客席はほぼ完存している。日当たりが良くて景色もいいのでここで弁当を広げた。そこここで家族連れや若者たちが楽しそうにサンドウィッチを食べたりマルシェで買ったらしい惣菜をつついたりしている。バゲットだけかじりながらワインを飲んでいる若いカップルもいたが、パンが旨いからでこれはこれで様になっている。我々の飲み物はミネラルウォーターだったがワインも買ってくりゃよかったな。
リヨンで見ることのできるローマ遺跡はここだけなのだが、かつては丘全体からソーヌ川の対岸まで植民都市が広がっていた。ローヌ川をさかのぼればスイスのレマン湖に到るし、ソーヌ川の上流はモーゼル川と合流してゲルマン人の土地につながっている。交易の重要な拠点として栄えていたことは間違いない。
|