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ガリア・ローマ再訪
ガリア・ローマを再び訪れる機会は2010年秋にやってきた。2007年の旅ではローヌ川下流域のガリア・ナルボネンシスを中心に見て回ったので、今回はローヌ中流域に広がるガリア・ルグドゥネンシスを集中的に攻めるつもりでいる。
この年の2月にはパリの博物館、美術館だけを1週間で巡るという短い旅をした。これまでフランスの田舎を巡ることばかりを目的にしてきたためパリは通過するだけで、その日のうちに乗り継ぐかせいぜい1泊しかしていない。訪ねたのはルーヴルとオルセーにノートルダム大聖堂ぐらいだった。
しかし、なんと言ってもパリには様々なものが集められている。博物館、美術館、教会、遺跡などパリで見ておくべきところを一気に訪ねて回るとともに、ガリア・ローマの情報を集めようというもくろみだった。
その時訪ねたところを列記すると、サン・ジェルマン・アンレーの国立考古学博物館(Musée d'Archéologie nationale et
domaine national de Saint-Germain-en-Laye )をはじめ、カルタゴの遺物を収蔵しているアラブ世界研究所(Institut
du monde arabe )の博物館、パリでは数少ないローマ建築が残るクリュニー中世美術館(Musée de Cluny le monde
médiéval) 、ルーヴルのギリシャ、ローマ、カルタゴなどの展示、ギメ東洋美術館(Musée national des Arts Asiatiques-Guimet)
、ケ・ブランリー美術館(Musée du quai Branly) 、ポンピドゥーセンター(Centre Georges-Pompidou)
の現代美術館、ル・コルビュジェが設計したユニテ・ダビタシオンの実大模型がある建築遺産博物館(Cité de l’architecture et
du patrimoine) 、自然史博物館(Musée national d’Histoire naturell) と進化大陳列館(Grande
Galerie de l’Evolution) 、かつてコンスタンティノポリスで十字軍が奪った聖遺物が収められていたサント・シャペル(Sainte
Chapelle) 、パリ最古のロマネスク建築が残るサン・ジェルマン・デ・プレ教会(Église de Sainte Germain des
Prés) 、パリ最大のモスクなどだ。
まだほかに見たいところはたくさんあるのだが、旬の牡蠣を食ったりうまい肉を食ったりもしなければならんので、実質5日間、パリ・ミュージアムパスとメトロの回数券で巡るにはこれくらいが限界だ。この旅での収穫はノートルダム大聖堂の正面広場の地下や中世美術館で、リュテスと呼ばれていたパリに残るガロ・ローマの遺跡を初めて目にしたことと、長らく修復中だったサン・ジャック塔(Tour Saint-Jacques) の全貌をやっと見ることができたことだ。サン・ジャック塔はフランスのサン・ティアゴ・デ・コンポステラ巡礼路のうち一番北のヴェズレーの道の起点だったサン・ジャック教会の遺構だ。
この旅ではサンルイ島にあるオテル・サンルイに1週間連泊した。パリ随一の高級住宅地ということで夜が静かな町だ。何日目だったか、ホテル近くのレストランで夕食をとっていたら、一つ向こうのテーブルにものすごいオーラを放っているばあさんがいた。品のいい身なりの二人の男性とテーブルを囲んでいるのだが、一人とはフランス語で、もう一人とはきれいな英語で会話している。一目見てジェーン・バーキンだと気が付いた。やはりただものじゃない空気感だ。テレビなどで見るこの人、常にノーメイクでその素顔がまた好感度を高めていると思うのだが、ここでばらしてしまうと、プライベートではピシッとお化粧してるしファッションも見事に決まっていて近寄りがたい雰囲気をまとっている。
もうひとつ、サン・ルイ島でエポナという考古学専門のいい書店を見つけたことも2度目のガリア・ローマの旅を後押しする収穫だった。その本屋で買ったフランスの考古学雑誌のガロ・ローマ特集号を見ると結構な数の遺跡が紹介されている。読んでいて「なるほどそう言うことかあ」と気付いたのだが、ロマン(Romain) とかロメーヌ(Romaine) が町の名の一部になっているところはコロニアがあった場所が多いらしいということと、温泉があることを示すレ・バン(les Bains) がついた町も風呂好きのローマ人がコロニアを築いた可能性があることだ。
冬のパリから帰国してすぐに、ミシュランの地図を広げてローヌ川中流域の都市リヨンを起点に1週間ほどで回れる範囲のそういった地名をしらみつぶしに探した。最近グーグルアースという大変便利なアイテムができて、これが遺跡探しの強い味方になっている。地図で目ぼしを付けた場所を航空写真で拡大してつぶさに観察すると、石造物などの遺跡はもとより、クロップ・マークという植生の微妙な違いで地下の遺跡が浮かびあがってきたりする。時には発掘現場が写っていることもある。さらに投稿された写真が貼り付けてあれば地上で見る姿も確認できるから、そこからいろんなサイトを検索して詳しい情報を固めていくことができる。すでに良く知られている遺跡に関してもその有用性は明らかだ。そんなふうにしていくつかの遺跡と町をピックアップし、下調べも済ませた。この秋のガリア・ローマ再訪はまさに満を持してというものだったのだよ。
知らない土地への旅は余計な予備知識なしに行くのが一番だという意見もある。新鮮な驚きや意外な出会いを最優先に考える若者の放浪旅ならそれもいいだろう。しかしテーマを持った旅の場合限られた時間でどれだけ多くを見てとるかが勝負だ。どんなに予備知識を仕入れていても知らない土地へ行けば驚きは常に新鮮だし思いがけない出会いもある。何も知らずに出かけて漫然と見てくるより、それははるかに鮮烈だ。
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