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美食の都リヨン
2010年9月、パリに向かって関空を飛び立った。その日のうちにリヨンLyon まで飛ぶ予定だ。乗り継ぎがうまくいかなかったらなんてことももうあんまり考えなくなってる。こう開き直ってしまうとかえってことはうまく運ぶもので、1時間半ほどしかなかったシャルル・ドゴール空港での乗り継ぎ時間もうまくクリアして無事リヨン行きに搭乗できた。パリからリヨンまではほんの1時間だ。リヨンの空港はサン=テグジュペリ空港という。ターミナルビルは鳥が羽ばたくような夢のあるデザインだ。星の王子様で知られるアントワーヌ・ドゥ・サン=テグジュペリのフルネームはAntoine Marie Jean-Baptiste Roger de Saint-Exupéry とやたら長い。リヨンの伯爵家の生まれだからかな。
荷物を受け取って外へ出るともう夜9時を過ぎていたので、ちょっと遠いがホテルにはタクシーで向かった。ローヌ川La Rhône とソーヌ川La Saône に挟まれた1区にあるそのホテルはベルクール広場Place Bellecour に近い商店街の真ん中にある便利なところだが、パリと違って夜遅くまで開いている飲食店は多くない。レストランが集まっている旧市街もそう遠くはないのだが、その夜は旅の疲れもあったのでホテルの近くで見つけたケバブの店で軽くすませた。
翌日朝からソーヌ左岸セルスタン河岸Quai de Célestins のマルシェに出かけた。途中通り抜けたベルクール広場の中央にはルイ14世の騎馬像が立っているが、それより目を引いたのは広場の南西隅にあるサン=テグジュペリの像だ。腰かけたサン=テグジュペリに星の王子様が寄り添っている。
マルシェは川岸の遊歩道500mほどの両側にたくさんの店が出ている。ほとんどが食料品の店で、ここでそろわないものはないと思えるほど種類も数も豊富だ。これまで行く先々でマルシェを見て回ったが、フランスでは地産地消が原則で、あまり遠方のものは見かけないのが普通だ。ここでも野菜や果物と肉類は近郊から来ていて見るからに新鮮なのだが、かのポール・ボキューズの本拠地として知られるここリヨンは言わずと知れた美食の都、内陸部の都市であるにもかかわらず、地中海や大西洋の鮮魚も空輸や生け簀で運んできているのだろう。産地に負けない鮮度を保っている。そんな店に混じって近郊の農家のおかみさんが営む小さな屋台では、ちょうどシーズンの小さなスモモばかり売っていたり、蜂蜜やおかみさん手作りのジャムを売っていたりする。それがまためっぽう美味いのだ。フランスの蜂蜜と農家のジャムは本当に悔しいほどうまい。
ジャムと蜂蜜を少しと、ついでにパンと生ハムとチーズを弁当に買ってからボナパルト橋Pont Bonaparte を渡って旧市街Vieux Lyonへ向かった。橋を渡ってすぐに華麗なゴシック様式のサン・ジャン大聖堂Cathédrale Saint-Jean がある。この周りの広場で蚤の市が開かれていたものだからなかなかローマの遺跡にたどり着けんじゃないの。まあ大半はガラクタばかりなのだが中にはおっ、と思うようなものがある。古い懐中時計や封蝋の上から捺すための印章などにいいものがあったがこれはというものはやはり高い。日本へ持って帰って売るつもりならいい小遣い稼ぎにはなるだろうがそんな気もないのでやっぱり見るだけにしておいた。
その近くにフルヴィェールの丘Colline de Fourvière に登るケーブルカーの駅がある。発車するとすぐにトンネルに入り、そのままノートルダム・ドゥ・フルヴィェール・バジリカBasilique
Notre-Dame de Fourvière のそばの地下駅に到着する。この聖堂自体は19世紀にロマネスク・ビザンツ様式で建てられたもので興味をそそるようなものはないのだが、この日は何か大きな祭日だったらしく、リヨンの大司教をはじめとする高位聖職者が勢ぞろいしてミサが開かれていた。その衣装の絢爛豪華なこと、少し反感をいだいてしまったほどだ。
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