Ecole de français du Kansai -Traduction, Interprétariat, Guide-
Ⅲ. 三たびガリア・ローマへ(2016)
フランスの絶景 ―サント・ヴィクトワール山―
ローヌワイン街道と美しい村々
オークルの村 ―ルシヨン―
特別な白ワイン ―ボーム・ド・ヴニーズ―
ヴァケラスからジゴンダス
セギュレとサブレ
住人が育てるいいレストラン ―カヴァイヨンー
コロニア・アレラーテ再訪 ―交易都市再発見―
古代ローマの川船
ガリア・ローマの食品コンビナート
フランス最大の塩田地帯 ―カマルグ湿原―
カマルグの白い馬
マルセイユ ―ガリア・ローマの熱気―
旅の終わりに
Ⅰ. ガリア・ローマへ(2007)
Ⅱ. 拡大するガリア・ローマ(2010)
あとがき

 ガリア・ローマの食品コンビナート

 5日目は朝からフランスの最も美しい村として南仏ではゴルドと並ぶ人気のレ・ヴォー・ドゥ・プロヴァンスLes Veaux de Provence を訪ねた。行ってみたら車の大行列で駐車場は満杯、村に続く道路もはるか下まで路上駐車でぎっしりだ。その辺に停めて頑張って山道を登ろうかと考えていたら、警官が駐禁をとりまくっているのが目に入った。この一日で何万ユーロと稼げるだろうからウハウハの入れ食いというやつだ。これはかなわないので、楽しみにしていたところだったが泣く泣く見物をあきらめた。
で、次の予定地、アケデュック・バルベガルLa meunerie hydraulique et les aqueducs romains de Barbegal (バルベガルの古代ローマ水力製粉工場と水道)という遺跡に向かった。アルルの東10㎞ほどのアルピーユ山南麓にある遺跡で、山裾の水源から南北方向の水道橋が並行して2本伸びている。水源の南200mほどのところに急に落ち込む石灰岩の斜面がある。西側の1本はその手前で直角に西に折れてアルルに向かい、コロニア・アレラーテの上水道源になっている。東側の水道は斜面の上端を切通した
 
アーチが連なる水道橋 下流から上流部を望む
向こうの山裾が水源 水源に近いほうはアーチはない

水路につながってそのまま急斜面を流れ下るようになっている。水路は斜面の途中でハの字型に分流し、それぞれの水路を挟んで石造の建物の跡が並んでいる。これは1ユニットあたり2棟の製粉所が1台の大型水車で稼働するというシステムを示していると考えられるが、今見える斜面だけでも20棟以上の建物跡が残っている。それより下の現在畑になっている部分との境界には南西に向かう細い道があり、水路が続いていたことは間違いないと思われるからまさに製粉コンビナートのような施設だったのだ。連日各地の属州から運び込まれる小麦を粉にひいていたはずで、膨大な量の小麦粉がアルルからローマ本国に送られていたのだと思われる。

 
アルルの方向に直角に曲がる部分 切通し
切通しに残る工具痕 切通しから流れ下る急斜面
製粉所の建物
内部に充填されたぐり石とコンクリート 水道の蓋石

 この水道橋、あちこち崩れたり倒れたりしていて遺存状態はあまりいいとは言えないのだが、その分石材の組み方やコンクリートの使い方がよくわかる。それを見ると、外から見える部分はきれいな切り石を組み上げているが、その内部は大きめのごろた石を裏込めにしてコンクリートで固めてあった。製粉所の手前の岩盤を切り通した水路にはツルハシのような工具の痕跡が明瞭に残っていて、なかなかの職人技だと感心させられた。
 アケデュック・バルベガルからアルルに戻る途中、2007年に訪ねてその森閑とした廃墟の姿に心を奪われたモンマジュール修道院Abbaye de Montmajour を再訪した。駐車場に車は少なく、またあの廃墟の雰囲気が楽しめると思ったのだが、エントランスからして大きく様変わりしている。内装がきれいになって、土産物や書籍がたくさん置いてある。モンマジュール修道院に関する本より美術展の図録や芸術に関する本が多い。掲示されているポスターを見ると、現代彫刻とプロジェクションマッピングを組み合わせたイベントが開催中だという。すこし前から廃墟の建物を利用した文化イベント施設として使われるようになったのだそうだ。帰国してから調べてみたら、ちゃんとしたホームページやフェイスブックもあった。
 修道院の建物自体は指定文化財なので手を加えることはできないから、イベント会場に使われている部分以外は以前のままの雰囲気を保っている。今回も塔に登ってみたが、好天だったのでアルピーユ山をきれいに見渡すことができた。下を見下ろすと、修道院裏手の牧草地に何頭もの白馬が放牧されていた。カマルグ馬だ。明日はカマルグ湿原でその乗馬に挑戦することになっている。

モンマジュールから見たアルピーユ山 放牧中のカマルグ馬

ホテルに戻って、近くのヴォルテール広場Place Voltaire に何軒かのブラッスリーやカフェが並んでいる界隈にアルルで最後の夕食に出かけた。旅の疲れがたまってきたせいかつれあいの胃の調子が万全ではなく、軽いものも頼めるよう軽食もあるブラッスリーのテラスに席をとり、別に調子が悪くもないぼくはアントルコートを注文した。安い店だなと思ったがこれが大失敗で、レアを頼んだのに薄っぺらな肩ロースを塩コショウもせずに焼きすぎぐらい焼いてある。やたらと固く味なんぞありゃあしない。たぶん冷凍肉だ。そのうえ店の中まで塩とコショウを取りにいかなければならなかった。
 でも、この店でも楽しいことはあった。店の前の広場に仮設ステージがしつらえてあって、アマチュアのブラスバンドが生演奏を披露していた。シャンソンやよく知られているポピュラーソングをディキシー風にアレンジした演奏でなかなか楽しい。周りではカップルや家族連れが踊っていて、幼い子供たちまでダンスをしている。まだ幼稚園にも上がっていないような小さな子たちで振りはめちゃくちゃだったが、ちゃんとリズムには合っている。
 食事には後悔しつつもカマルグでの乗馬に備えて今夜はぐっすり眠ろう。
 
 不味いアントルコート アマチュアバンドと子供たち