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フランス最大の塩田地帯 ―カマルグ湿原―
アルルの少し北で大ローヌと小ローヌに分流したローヌ川が地中海にそそぐデルタの一帯に形成された広大な湿原地帯がカマルグ湿原Plaine de la Camargue だ。地中海の干満によって広範囲に海水が入り込み、ヨーロッパ有数のフラミンゴの繁殖地になっているほど多様な生物種が見られることから、約85.000ヘクタールがラムサール条約の登録地になっており、一部は地方自然公園Parc naturel régional にも指定されている。
カマルグの北部一帯はフランス最大の稲作地帯で、ヨーロッパでも有数の米の生産地だ。日本の米と同じ短粒種もたくさん栽培していて、料理の付け合わせやパエリアなどのほか、最近流行りの寿司米にも使われる。そういえば、アルルの町なかのあちらこちらで9月10・11日の土日に開催されるコメの収穫祭のポスターを見かけた。祭りの期間中町なかでは「アルルの女王」を先頭に伝統衣装で着飾った美しいアルルの女やガルディアンGardians のパレードがあり、円形闘技場では闘牛が開催されたりガルディアンたちによるカマルグ馬の曲乗りが披露されたりする。
ここはまた、質の高い天日塩を作るフランス最大の塩田地帯があることでも知られていて、その塩田のある町サラン・ドゥ・ジローSalin de Giraud の先に乗馬クラブがある。
この町はカマルグ湿原の東のへり、大ローヌの河口に面したところにあり、車で近づくと湿原の中に巨大な塩の山が見えてくる。製塩所の近くの展望台に登ってみると、太陽で濃縮された海水に発生するドナリエラという藻類で赤く染まった塩田が地平線のかなたまで広がっている。説明版の配置図で⑦の洗塩施設のそばに展望台があるから、見えているのは製塩工程の最終段階の⑥の塩池の一部で1枚が一辺500mぐらいある。塩田全体を見ようと思ったらヘリにでも乗るしかない。それほど広大なものだ。ドナリエラは好強塩性の藻類で体内でカロテノイドを生成するため濃縮された海水が赤くなる。塩の結晶の中でも生き続けるが、製品として出荷する塩からは取り除いてあるそうだ。
ここの塩は完全天日塩で、海のミネラルを豊富に含んでいるので味が深い。塩田の表面に最初に浮いてくる結晶がフルール・ドゥ・セルFleur de sel (塩の花)と呼ぶ最高品質のものだ。オリーブオイルを垂らしたパンにパラリとひとつまみかけたりしたらもう最高である。また、グロ・セルGros sel という粗塩は料理の下ごしらえや煮込みに向いている。ところがこの塩、仕入れて帰ろうと思っていたのにサラン・ドゥ・ジローの町にはコンビニみたいな小さな食料品店が1軒あるだけでそこでは売っていなかった。カマルグからそのままマルセイユに戻る行程だったのでアルルで買っておけばよかったのに本当に残念だ。日本で買うと高いんだわ。
フランスではここカマルグの塩以外にゲランドGuérande の塩も有名で、そちらも完全天日塩だ。ゲランドはブルターニュ半島の南の付け根にある町で現在はペイ・ドゥ・ラ・ロワール地域圏Pays de la Loire に属すがかつてはブルターニュ公国の一部だった。ゲランドでもフルール・ドゥ・セルは作られるが、気に入っているのはほとんど精製していないため海藻のかけらが混じったグロ・セルで、特に魚や肉の下ごしらえにとてもいい。
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