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住人が育てるいいレストラン ―カヴァイヨン―
さて、話は戻るが、2日目の宿泊地はアルルの北西にある町カヴァイヨンCavaillon だ。赤肉で甘いカヴァイヨンメロンで有名だが観光地ではない。農産物の流通を主産業とする商業の街である。行程的に二日目の宿として便利な場所だったことと、ヴァカンスシーズンでもすいていそうでまだ行ったことがない町ということで選んだだけだ。町なかの八百屋には旬を迎えたメロンとスイカが山積みだった。カヴァイヨンメロンは15㎝ほどのものがひと玉2ユーロぐらいまでと安く、フランス以外の国々でも人気があってたくさん生産されている。
最近日本でも作り始めていてマルセイユメロンという名で売っているが、ひと玉800円ほどもする。だいたい日本では静岡あたりのマスクメロンに引きずられて手を掛けすぎるもんだから国産メロンの価格が高くなるんだよな。
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カヴァイヨンの凱旋門 |
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この町にもガロ・ローマの遺跡とロマネスクの教会はある。オフィス・ドゥ・トゥーリズムの前にある小さめの凱旋門は保存状態はよくないが、雨の当たらない部分には彫刻がよく残っていた。植民都市の中心、フォーロムの広場に建てられたもので、1世紀の建築である。説明版に添えられた1845年に描かれた絵を見ると下半分が地中に埋まっていたことがわかる。
ノートルダム・サン・ヴラン大聖堂Cathédrale Notre-Dame-et-Sinte- Veran は11世紀の建築で、内部が見学できなかったのは残念だったがあまり修復されていない分ロマネスク様式がよく残っている。あちこち痛みが目立つが、平面半八角形の後陣や八角形の塔は見事だ。創建期のものではないだろうが外壁に取り付けられた古い日時計が印象に残った。
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サン・ヴラン大聖堂の塔 |
質素な入口 |
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半八角形の後陣 |
壁の日時計 |
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ここで泊まったホテルは長距離トラックの運転手などがよく利用する町はずれのビジネスホテルで広い駐車場もある。フロントにおとなしそうな看板猫がいたのでからかって遊んでたら「ひっかかれるよ」ってマダムに注意されたが、人懐っこい猫だった。夕食をとりに街へ出たが、オフィス・ドゥ・トゥーリズムの前のメインストリートに数軒のレストランがあるだけで夜は活気がない。なんだかうらぶれた感じさえする。その中で1899年創業の「カフェ・ファン・ドゥ・シエークルCafé
fin de siècle (世紀末)」というブラッスリーだけ客がいっぱいだ。家族連れやくだけた格好の若者が多いので一見して地元客ばかりだとわかる。こういう店は間違いがない。
こちとらが選んだ前菜はカヴァイヨンメロンを使った生ハムメロンでこれが本物だ。日本でよく見かけるマスクメロンに生ハムを乗っけたものはメロンが熟していればいるほどビチャビチャして、なんかお子様の味という感じでいただけない。肉質のしっかりした赤肉メロンにこそ生ハムは合う。相方は柔らかい白カビチーズと生ハムをあしらったサラダ。メインは牛肉のカルパッチョとヒメジのポワレをチョイスし、生ビールとともに味わった。カルパッチョはもも肉のスライスにオリーブオイルをかけて軽く塩コショウしただけの要はただの生肉なのだが、肉の甘みと旨味を純粋に味わう単純な料理だけに肉自体がうまくなくてはどうにもならない。ここのはよかった。ヒメジは鯉みたいな髭があることから日本ではオジサンなんて別名もつけられており、キス釣りの外道扱いで人気がないがフランスでは高級魚の部類に入る。刻んだパセリとオリーブオイルでポワレしたものだが、焼き加減がちょうどいい。味はどれも結構なものだし、隣の席の家族連れが親しげに話しかけてきたりして雰囲気もいい。小さな町ということもあるのだろうが訪れる客がみんな顔見知りのようで、あちこちで握手やビズが繰り返されている。地元客ばかりだと味の評価も遠慮ないものになるだろうし、みんなが寄ってたかって育ててきた店なんだろうなと思った。
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