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泉の都エクス・2
エクスはセザンヌがアトリエを構えた町としても知られている。そのアトリエは当時そのままに保存されていて公開されているのだが、我々が訪ねた日は残念なことに休館日だった。セザンヌはエクスの東にあるサント・ヴィクトワール山Montagne
Sainte-Victtoire を愛し、足しげくスケッチに通っていた。エクスからサント・ヴィクトワール山に続く県道17号は「セザンヌの道Chemin
de Cézanne 」と呼ばれている。
エクスでの夕食はアラブ料理にした。フランスのあちこちでケバブなど軽食はよく食べたし、パリのアラブ料理屋でクスクスも食べたことがあるのだが、ちゃんとしたアラブ料理のしかも本格的なタジンを食べたいと思ったからである。タジンTajin は低温焼成した土鍋のことで、この鍋で調理した料理もタジンと呼ぶ。円錐形をした背の高い蓋が特徴で、その蓋が食材から出た蒸気を結露させて再び鍋に戻す。水が貴重な砂漠地帯で野菜の水分だけで蒸し煮するための鍋で、単純だがよく考えられている。水を使わないから食材の味が逃げることなく、土鍋の遠赤外線効果と相まってとてもうまい料理ができることから最近日本でも人気が出ている。
ホテルに近いリアドRiad というレストランは入口は狭いのだが奥行きがあり、一番奥に広い中庭がある。気持ちのいい屋外のテーブルに案内されて、モロッコ風サラダSalade marocaine をひとつと子羊と野菜のタジン・ダニョーTajin d’agneu に肉団子と卵のタジン・ドゥ・ケフタ・オ・ウッフTajin de kefta au œuf を注文した。どちらも濃厚な味でクミンや生のコリアンダーなどスパイスとハーブの使い方が口に合ってとてもうまかった。リアドという名だが基本はモロッコ料理だ。コリアンダーは中国でいう香菜(シャンツァイ)、東南アジアでいうパクチーで、羊肉とともに単体だと苦手だという日本人がけっこういるが、この二つはまさに出会いのもので、うまく使うとたいがいの人が美味しいと言う。
何度かの旅でアラブのお菓子は頭が痛くなるほど甘いということを経験していたのでデザートはパスし、食後にお決まりのミントティーThé menthe を頼んだら、きれいなお姉さんがティーポットを高く掲げてカップに何度も注ぎなおすという型通りのパフォーマンスを披露してくれたのもいい思い出になった。ミントティーも砂糖たっぷりなのだが、生のミントのさわやかな香りが重い料理の口直しにはとてもいい。
お菓子と言えば、エクスにはカリソン・デクスCalissons d'Aix という名物がある。アーモンドの粉末をメロンのシロップで練って菱形の型で固めたものに砂糖で化粧してある。これも甘いのだが下品な甘さではない。日持ちするし高いものでもないので土産物に最適だ。
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