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ローヌの港湾都市3
ここでも壁画やモザイク画のコレクションをたくさん見ることができた。モザイクに使用する石の色は10色に満たないのだが、人物や動物を描いたものは陰影や微妙な色のアンジュレーションをはめ込む石の加減で表現しているところが見事だ。モノトーンで描かれた幾何学模様もとても二千年前のものとは思えないようなモダンさで、後のビザンツのモザイク画につながっていく技術の蓄積を見てとることができる。技術といえば、この博物館では様々な工芸技術の説明にかなりのスペースを割いている。モザイクの製作過程や、壁画のための顔料の作り方、骨角製品を細工する轆轤の構造などを実物とイラストで非常に分かりやすく解説してある。館内に移築された陶器の窯も構造がよくわかるいい展示だ。
博物館の建物は細い柱で支えられたピロティ方式で、三面がガラス張りになっているので対岸のヴィエンヌの町並みや屋外の遺跡を眺めることができる。外のスロープを伝って地上へ降りるとそこから石敷きのローマの道になっている。敷石のところどころに10センチぐらいの小さな穴が開いていて、道の下に下水溝が巡っていることもわかる。道を歩くとすぐに浴場の跡があるが、ここがうずくまるアフロディテが発掘された場所だろう。この遺跡は相当広い。大きな邸宅の跡が道の両側に並んでいて庭園や東屋の跡まで発掘されている。ワインカーヴの跡も見つかったようで、そこには巨大なブドウ搾り機が復元されていた。中には発掘したままで整備していない遺構も簡単な素屋根の下で公開されている。
そういったことから、ローヌ左岸のヴィエンヌが政治、経済、娯楽の中心で、右岸のサン・ロマン・アン・ガルとサント・コロンブは高級住宅地だったことが理解できた。
面白かったのはローマ時代の農園を再現した屋外展示で、いろんな野菜やブドウが栽培されていた。ブドウの品種は大半が黒ブドウだがバルベラのようなイタリア原産の古いタイプのものからグルナッシュやシラーなどローヌの赤ワインの主要品種までいろいろある。剪定の仕方や棚の作り方が今とは違っていて実のなり方もまるで違う。どのブドウもよく熟していたのでとりあえず全部つまみ食いしてみたら甘いのなんの、こりゃあいいワインができそうだ。
ちなみに昼食はこの博物館にある黒を基調にしたモダンな内装の「シーザーの食卓La table de César 」というレストランで食べた。ヴィエンヌでは名の通ったおいしいレストランらしく食事だけに訪れる客も多い。仔羊の骨付き背肉のグリエを頼んだが、焼き加減も赤ワインのソースも申し分ない。付け合わせはサヤインゲンだったがえぐみが全くなくさわやかな甘みがいい。連れ合いのサーモンのグリエもしっとりと焼きあがっていてクリームソースもなかなかだ。少々高くついたがさすがフェルナン・ポワンのおひざ元と感心する味だった。ヴィエンヌもまた美食の街である。
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