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谷底の町モルレー Morlaix
谷底の町
モルレーは北に向かって開くモルレー湾から入り組んだ深い入り江の一番奥に開けた小さな港町だ。町は深い谷底にあり、ローマの水道橋かと見まがうようなとてつもなく高い石造の鉄道橋が町の真ん中を横断しているのが強い印象を与える。ゴワイエンで見たのと同様の氷河地形で、この谷を流れ下っていた小さな川は現在地下水路化されている。入り江の突き当たりはコンクリートの護岸で固められた船着場で風情も何もないが、車を停めるには旧市街より便利なので、この港に面したオテル・デュ・ポールHotel
du portに宿を取った。
鉄道の駅は谷の上にあり、旧市街から歩いて登ろうと思えば長い石段があるのだが、これがまるで金比羅さんの石段みたいなもので、旅の疲れもあってとうとう歩いてみる気が起こらなかった。
港のほうからぶらぶら歩いていくと、道は緩やかな登り坂になっている。鉄道橋をくぐってしばらく行くと市役所があり、そこから奥が旧市街だ。ここから傾斜が少し急になるので、市役所のところまでが入り江を埋め立てた土地であると気付く。旧市街は幾筋かの通りがU字谷の等高線に沿って走っているため、それぞれの町並みの高さが違い、建物の間の狭い階段が通りをつないでいるのが迷路のようだ。結構再開発が進んでいるようで新しい建物も混じっているが、通りに面して木骨造りの家がたくさん残っている。もう少し登ると三体聖母子像があるサン・マチュー教会L’Eglise
St-Mathieuがあり、ここが旧市街のはずれだからもともとは本当に小さな町だったことがわかる。
石畳のアランド広場Place Allendeに面した一段高いところにこの町で最も古い木骨造の住宅があり、よく保存されたルネッサンス期の貴族の邸宅として文化財に指定されている。1階が石造、2階より上が木骨漆喰造4階建てのこの家は“アンヌ王妃の家”Maison
de la Reine Anneまたは“アンヌ女公の家”Maison de la Duchasse Anneと呼ばれているが、アンヌ・ド・ブルターニュとの関係は、どうもなさそうだ。ドアと外壁の柱頭に施された木彫が素晴らしい。この辺りが木骨造住宅が一番集中しているところで、通りに面した住宅は2階、3階と少しずつ道路側にせり出している。馬車の通れる道幅を確保しつつ居住空間を広げるという工夫だろう。高台から見渡すとほっとするような田舎町の生活感があふれた景色だ。
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