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チーズの種類とタイプ
・生地pâte の種類
⑴ ハードタイプのチーズ
フランス語ではPâtes dures と言い、凝乳から乳清を分離した生の状態のチーズを型に入れて固めるものですが、成形する段階で圧するものと圧さずに時間をかけて固めるものがあります。熟成期間は数か月から数年に及び、その間定期的にひっくり返したり、塩水で洗って乾いた布で拭いたり、雑菌の繁殖を防ぐためブラシをかけたりということを繰り返します。こうすることで硬い表皮に覆われているものが多く(モルジュMorge化すると言います)、独特の香りも生まれます。熟成の段階によって硬質のものと半硬質のものがあり、比較的長期の保存に耐えるものです。通常表皮は削り落として食べますが、あまり厚く落とすとおいしいところを逃すことになります。
製法により以下の4種に分けられます。
① 加熱して圧したチーズPâtes pressées cuites :凝乳を40~60℃に熱して型に詰めプレスして強制的に水分を切り成形する。プレスの重さはチーズによって異なり、成形した生地を何枚か重ねて大きな型に詰め2度圧するものもある。
② 半加熱して圧したチーズPâtes pressées demi-cuite :凝乳を35℃以下に熱する。成形は①と同じ。
③ 加熱せず圧したチーズPâtes pressées non-cuites :凝乳を加熱せずに圧するもの。各地のトムTomme が代表的なもの。
④ 加熱せず圧しないチーズPâtes non-pressée non-cuite :凝乳を加熱も圧することもせず時間をかけて自然に固まらせるもの。
⑵ 柔らかいチーズ
フランス語ではPâtes molles と言い、型で成形するだけで圧することはありませんから熟成が早く、ハードタイプのチーズより保存性は落ちます。個性豊かなものが多く、食べる人の好みや調理法によって若いうちに食べたり、とろとろに熟してから食べたり、焼いたり、あるいは硬くなるまで置いてから食べたりといろいろな楽しみ方ができます。
熟成前に木炭の粉末や灰をまぶしたものはサンドレcendréと呼ばれます。かつては虫がつくのを防ぐためでもありましたが、山羊乳チーズの酸味をやわらげたり水分を早く取り除いたりする効果があるため現在も使われています。好みの問題ですが、表皮を取り除いてもそのまま食べても問題ありません。熟成のしかたで以下の3種に分けられます。
① ウォッシュタイプのチーズPâtes molles à croûte lavée :型から外したあと塩水や酒類で洗いながら熟成させるもので、表皮にリネンス菌という特殊な菌を繁殖させて生地の腐敗を防止します。ぬめりのある表皮から強烈な個性を放つ匂いを「芳香」ととるか「悪臭」ととるかは人それぞれですが、年配のフランス人は「昔ほどじゃない」と言います。通向きのチーズと言われるゆえんです。表皮は取り除くことが多いようですが、かなりのインパクトを覚悟の上ならそのまま食べても害はありません。
② 白カビタイプのチーズPâte molle à croûte fleurie :「花が咲いた表皮」と表現されるとおり、一面ペニシリウム・カンディディウムという白カビに覆われたチーズです。カマンベールがよく知られていますが、ちょうどよく熟成したものは生地がとろりとしてとても味がよく万人向きのチーズと言えるでしょう。食べるとき表皮は取っても取らなくてもどちらでも構いません。
③ 自然な表皮ができたチーズPâte molle à croûte naturelle :熟成によって自然にできる表皮に覆われたチーズです。木炭の粉をまぶしたり葉っぱで巻いたりしたものもあります。表皮の色は様々で、いろんなカビがついていることもあります。食べごろも好みによっていろいろで、若いものを焼いて楽しんだり、硬くなるまで熟成したものをすりおろして使ったりもします。表皮はつけたまま賞味することが多いようです。
⑶ ブルーチーズPâte persillée
基本的には柔らかい生地のものが多いのですがやや硬質のものもあるため、上記⑴、⑵に属さないものとして青カビタイプのチーズがあります。生地の中で繁殖した青カビがパセリのように見えるためPâte persilléeと呼ばれます。凝乳に青カビの菌を植え付ける製法は共通していますが、ロックフォールのように生地に針を刺して空気が入るようにし青カビの繁殖を助けるものと針を刺さず自然に任せるものがあります。いずれも個性的な風味の素晴らしいチーズです。ロックフォールの青カビはペニシリウム・ロックフォルティといって、他のブルーチーズでも使われています。
⑷ 乳清チーズFromage de Lactosérum :凝乳から分離した乳清に原料乳を足して作られるチーズで、コルシカCorse のブロッチュBrocciu というチーズだけがAOPを取得しています。熟成して運搬できるようにしたものもありますが、朝作り立てのまだ温かいものをチーズ店の店頭で賞味するのが一番だと言われており、現地に行かなければ味わえない幻のチーズです。
⑸ フレッシュなチーズPâte fraiche :凝乳から乳清を分離しただけのもので、すべてのチーズのもとになるものです。faisselle(擬乳から乳清を除くための水切りカゴの意)とも呼ばれ、人類が遊牧生活を始めたころには作られていただろうということで最古のチーズといわれています。フランス各地でよく食べられるフロマージュ・ブラン・フレFromages
blanc frais と同じものです。乳脂肪濃度によって味わいは変わりますが、酸味の薄いヨーグルトといった舌触りで、そのままでも、ジャムを添えたりリキュールをかけたりしても楽しめます。
⑹ その他のチーズ
上記以外にAOPではありませんが、ドゥヴル・クレームDouble crémeやトリプル・クレームTriple crémeなど生クリームを添加することによって乳脂肪を高めたもの(ブリヤ・サヴァランなど)や、モザレラのように糸を引くチーズPâte fraîche filée があります。
また、乳脂肪の量によって減脂肪チーズFromage allege 、低脂肪(痩せた) チーズFromage maigre などという呼び名もあります。
厳密な意味を持つ呼び名ではありませんが、個性の強いチーズのことを「強いチーズFromages forts 」と呼ぶこともあります。
同じく強いチーズという意味になるFromage fort は、日にちがたって硬くなったチーズを砕いてワインやオー・ド・ヴィーに漬けこみ、塩コショウなどで味を調えて発酵させたもので、チーズ店や家庭で手作りされることが多いのですが、強烈な匂いと味のスプレッドになります。でも、これはこれで病みつきになるとも言います。
プロセスチーズのことはPâte fondue と言いますが、ここでは取り上げないことにしましょう。
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